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Kalraの怪談

第56章 五十六夜目:曲がり屋敷

☆☆☆
どのくらい時間が経った頃だろう。先程のショックが冷め、ようやくウトウトとし始めたとき、ふと、気配を感じ、目が覚めた。

ナニかが私の顔のすぐ近くにいる・・・。
目を開く前に私は確信していた。
「・・・してよ・・・」
低い、歌うような声。手足が震える。頭から冷水を浴びせられたような感覚。
声が出ない。
「・・・だしてよ・・・だしてよ・・・」
繰り返し、繰り返し、
『ナニか』が訴えかけてくる。

何?何を出してほしいの?私は目も開けられず、硬直していた。
数分だろうか、数十分だっただろうか、どのくらいそうしていたかわからないが、ふと、気配が消えた。
いなくなった?
ズズ・・・ズズズ・・・
いや、いる・・・。二人で寝るには広いこの部屋を『ナニか』が這いずっている音がする。

に、逃げなきゃ・・・

這い回る音が一番遠く離れたとき、私は渾身の力を込めて、目を開き、一気に左手の襖を目指し、廊下に転がり出た。その時は無我夢中で、夜が明けるまで部屋から出てはいけないというルールのことは頭になかったのだ。

T子を起こさなきゃ、と、ちらっと思ったけど、それどころではなかった。とにかく逃げなくてはと思い、ろくに足腰が立たないまま、廊下をほとんど四つん這いで逃げ出していた。

ガタガタガタ

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