テキストサイズ

Kalraの怪談

第57章 五十七夜目:取りかえっ子

あの子は、その家族が乗る前からバスに乗っていたではないですか。同じ家族であるとは思えません。しかし、その子は、ぴょんと座席から飛び降りると、お母さんと手を繋いだのです。そして、まるで本当の家族のように、一緒のバス停で降りたのでした。
「こら!Rちゃん。降りるよ」
私はぼうっとしていたのでしょう、母に声をかけられてしまいました。私も慌ててバスを降ります。見回すと、あの子はお母さんと手をつなぎながら、ニコニコとなにかを話しています。

『勘違いだったのかな?』

実は、その子は親子と一緒に乗ってきたのだったかしら、と。
夕焼けの街で次第に小さくなっていく親子を見ながら、私はそんなふうに考え始めていました。
でもその時、その不思議な子が、不意に私の方を振り返ったのです。夕焼けを背に逆光になっていて、表情は真っ黒でしたが、私は『笑っている』と感じました。確かに、私を見て笑っていたのです。
この瞬間、なぜだかわからないのですが、怖気が私の背中を立ち上りました。見てはいけないものを見てしまったように思ったのです。

私は慌てて、母にしがみつきました。
「なあに?どうしたのRちゃん?」
母が私の視線の先に目を送ります。
「ああ、この間引っ越してきたKさんね。あなたと同じくらいのお姉ちゃんがいたの」
たった今、Kさんの家に入り込んだモノがいるということに母は気づいていないのです。

『私だけが知っている・・・?』

そうはいっても、どうすることもできません。私はそのままKさんたちを見送るしかありませんでした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ