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Kalraの怪談

第59章 五十九夜目:花火

☆☆☆
この話には後日談がある。
この話をしてから、1年ほどしてK太と会う機会があった。
その時のK太は大分やつれていた。
聞くと、円安の煽りを受け、経営していた会社が次々に倒産してしまい、自己破産の手続き中だという。
一体何があった?と聞いたところ、
「あいつが出てったんだよ」
と肩を落として言う。
どうやら、奥さんに逃げられたらしい。

「多分偶然だろうけど、それからいろんなことが上手く行かなくなって、結局会社は倒産。子供二人を食わせるのに精一杯だ」
絵に描いたような転落劇だ。僕はK太を励ますためにも、夕食を奢ってやることにした。

「1年前の話し覚えているか?」
飯を食いながら、話をする。
「もちろん覚えている」
「あの後すぐだった。
 去年の夏、K町の別荘に家族4人で行ったんだ。皆で花火大会を見に行った。
 彼女は両方の手に子どもを従えて先を歩いていた。
 花火が打ち上がり、彼女を照らす。
 朝顔の浴衣を着ていたよ。
 ふいに、彼女はこっちを振り向いた。
 花火の炸裂する光で表情が見えなかったけど、なんか悲しそうな顔をしていた。
 その時、やおら2人の子どもの手を振り払うようにしてそのまま走っていったんだ。
 何があった訳じゃない。どうしていきなりそんなことしたのかもわからない。
 俺は追いかけたさ。下の子を抱えて、上の子の手を引いて・・・でも、でも。
 それきりだ・・・。」
なんと言っていいかわからない。
掛ける言葉もないまま、僕たちはもくもくと飯を口に運んだ。

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