
Kalraの怪談
第9章 九夜目:海の怪談
【海の怪談】
T県にあるI島には、「絶対に夜、海を見てはいけない日」がある。
こういった伝承自体は、さほど珍しいものではなく、日本全国に同じような話が伝わっている。
その多くは、何らかの神事のためであるとか、夜に海に行って遭難することを戒めるため
などの理由で言い伝えられたものだ。
「海を見ると祟られる」などと言うことで、海への畏怖を忘れないようにする役目もあるかもしれない。
僕自身、I島の伝承も、そんなよくある言い伝えのひとつだと思っていた。
今思えばやめておけばよかったのだが、この伝承に興味を持った僕は、I島出身の友人と一緒に『海を見てはいけない』と言われている、まさにその日に島を訪れた。
古くからその土地に住んでいる信心深い住民は、その日は朝から家の戸に
「がんじゃら みんぜよ」
と書かれた魔除けの札を張り、家に閉じこもっていた
「昔からこうだ。この日は店も開けないで家にいる。余程の用事がない限り、外出もしない」
と、友人は言った。
「安息日みたいなものなのかもしれないな。働きすぎないように、とか」
僕は考察めいたことを口にする。
昼間ならいいだろうということで、せっかく夏のいい季節に来たのもあり、僕らは海に入ることにした。
I島の海はとてもきれいで、岸近くにも関わらず大小の魚が泳ぐ姿を間近に見ることができた。
ライフジャケットを着て、シュノーケリングを楽しんでいた僕らは、海の美しさにすっかり魅了されていた。
そして、午後4時を過ぎた頃、そろそろ夕方に差し掛かり、さすがに上がらなければまずいだろうという話になった。
僕自身は全く祟りだのは信じていないが、島で育った友人は、やはり何か落ち着かないらしく、帰りたそうにしていた。
ところが、さあ、帰ろうということで岸辺を見ると、思いもかけず沖まで来てしまっていた事に気づいた。
引き潮というわけではないはずなのに・・・
僕は少し慌てて、友人を促し、岸に向かって泳ぎ始めた。
日が徐々に傾いてくる。
バタ足をしたり、手で掻いたりするが、一向に岸に近づかない。
変な潮の流れがあるのかもしれない。
T県にあるI島には、「絶対に夜、海を見てはいけない日」がある。
こういった伝承自体は、さほど珍しいものではなく、日本全国に同じような話が伝わっている。
その多くは、何らかの神事のためであるとか、夜に海に行って遭難することを戒めるため
などの理由で言い伝えられたものだ。
「海を見ると祟られる」などと言うことで、海への畏怖を忘れないようにする役目もあるかもしれない。
僕自身、I島の伝承も、そんなよくある言い伝えのひとつだと思っていた。
今思えばやめておけばよかったのだが、この伝承に興味を持った僕は、I島出身の友人と一緒に『海を見てはいけない』と言われている、まさにその日に島を訪れた。
古くからその土地に住んでいる信心深い住民は、その日は朝から家の戸に
「がんじゃら みんぜよ」
と書かれた魔除けの札を張り、家に閉じこもっていた
「昔からこうだ。この日は店も開けないで家にいる。余程の用事がない限り、外出もしない」
と、友人は言った。
「安息日みたいなものなのかもしれないな。働きすぎないように、とか」
僕は考察めいたことを口にする。
昼間ならいいだろうということで、せっかく夏のいい季節に来たのもあり、僕らは海に入ることにした。
I島の海はとてもきれいで、岸近くにも関わらず大小の魚が泳ぐ姿を間近に見ることができた。
ライフジャケットを着て、シュノーケリングを楽しんでいた僕らは、海の美しさにすっかり魅了されていた。
そして、午後4時を過ぎた頃、そろそろ夕方に差し掛かり、さすがに上がらなければまずいだろうという話になった。
僕自身は全く祟りだのは信じていないが、島で育った友人は、やはり何か落ち着かないらしく、帰りたそうにしていた。
ところが、さあ、帰ろうということで岸辺を見ると、思いもかけず沖まで来てしまっていた事に気づいた。
引き潮というわけではないはずなのに・・・
僕は少し慌てて、友人を促し、岸に向かって泳ぎ始めた。
日が徐々に傾いてくる。
バタ足をしたり、手で掻いたりするが、一向に岸に近づかない。
変な潮の流れがあるのかもしれない。
