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Kalraの怪談

第9章 九夜目:海の怪談

もしかして・・・

「なあ、あの伝承は、もしかしたら、今日のこの日、島から離れる海流が強くなるから、海に出るな、とか言う意味じゃないよな?」
僕は友人に尋ねた。

もしそうだとしたら、僕らは本当に遭難するかもしれない。
「いや、そんなわけない。そんな特別な潮が一日だけあるなんて聞いたことない」

そりゃそうだ。
杞憂だったのか・・・
だが、岸は一向に近づいてこない。

夕日が沈みだした。
いつの間にか時計は5時を回っていた。
僕はますます焦ってきた。

「があ・・・!」

そのとき、友人が突然、声を上げた。
ライフジャケットを着ているはずなのに、溺れるように手が宙を掻いている。
「おい!」
僕は友人の手をつかみ、引き上げようとしたが、ものすごい力で引っぱられているようで、顔を引き上げることすらできなかった。

それどころか、自分まで引き込まれそうになり、ガボっと海に顔を突っ込んでしまった。

そして、潜った先に見たものは、一生忘れない。

友人の足に幾重にも絡みついた黒い手、崩れ落ちそうなほど腐った人の顔
何かが友人を悪意を持って引き込もうとしていた。

それを見た瞬間、恐怖のあまり、僕の意識が途絶えた。

目が覚めると、島の病院のベッドだった。
ライフジャケットのまま漂っているところを付近の漁師が助けてくれたようだった。

友人は行方不明だと言われた。

僕は見たことを言おうと思っていたが、信じてもらえないと思いやめた。

ところで、僕は一つ気になっていることがある。
島の人々が扉に貼っていた札
「がんじゃら みんぜよ」
は島の言葉で、
「ガンジらを見てない」
という意味だそうだ。

『見ていない』

伝承にはこうあった。
「夜、海を見てはいけない」

「行ってはいけない」
ではないのだ。

ガンジとはなんだろう
もし、ガンジが『あれ』なら、僕は『見て』しまっている。

もう、怖くて海に入ることはできない・・・

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