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Kalraの怪談

第14章 十四夜目:葬儀屋の話

【葬儀屋の話】

私の名前は立花芳夫、
この小さな町の小さな葬儀屋に勤めるものです。
その日も、私はある老婆の葬儀を行っておりました。

今回の葬儀は、私にとってもやや気が重いものでした。
なぜならば、このご老人は、交通事故にあわれて不慮の死を遂げたからです。
そんな死に際しての葬儀は、心が痛むものです。

悲しみにくれるご親族にいらぬ気苦労をかけないのが私達の務めです。
私は、弔問に訪れる方々を、親族のご友人の方に手伝っていただきながらお迎えしておりました。

葬儀はしめやかに終了し、片付けを行います。
葬儀の終了にあたり、ご親族やご友人の方にお帰りいただく前に、私は手早くご記帳された方の名前と御香典の確認をいたします。

そのとき、ご記帳の最後の行に何気なく目が止まりました。
「山田 一郎」
そう書かれていました。

文字が立派だったのか、それとも最後に書かれていたからか、その時は何が気になったのかわかりませんでしたが、
ふと、目に止まったのです。

「今日のご弔問のお客様は山田一郎様で最後でした」
そう、喪主である息子様に申し上げたところ、息子様は首を傾げておいででした。

「山田一郎・・・?どなたでしょう」
そう言って、奥様の方をご覧になりましたが、奥様も首をふっておいででした。
その時はそれで終わりでした。

また、数日後、葬儀の依頼が参りました。
今度もまた、気の滅入るような話でした。

焼死・・・・

そう、台所で料理をしていた奥様の失火と思われましたが、火はあっという間にまわり、家は全焼、喪主である旦那様がお帰りになったときには奥様とお子様が帰らぬ人となったのです。

葬儀屋として私ができることは、最大限の礼を尽くして、お亡くなりになった方をお送りすることだけでした。

旦那様は痛々しいほど肩を落としておいででした。
弔問客の最後は女子大に通われていた奥様の後輩のグループでした。
皆、口々にお悔やみの言葉を述べ、旦那様を力づけようとしておいででした。

その日、私がいつものようにご記帳を確認していると、またしても最後にあの名前があることに気がついたのです。

「山田 一郎」

こんな偶然もあるものだと思いました。
同じ街で全く関わりがなさそうな二人の方なのに、一番最後に同じ方がご記帳しておいででした。

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