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Kalraの怪談

第16章 十六夜目:事故物件

【事故物件】

10年前、学生だったとき、私は金がなかったこともあり、いわゆる事故物件というのに住んだことがある。その物件とは、都内で駅チカの一等地にも関わらず、家賃は破格の5万円だった。今なら絶対に手を出さない。

しかし、当時の私にそんな知識はなかった。

訪れた不動産屋は、私にこう言った。

「今日入ったばかりの好物件ですよ。今ならすぐに見学ができます」

その言葉と安い家賃にまんまと踊らされ、私はその場で見学したいと申し入れた。

そして、案内された部屋は手狭であるが、収納はあるし、何より築浅できれいだった。四階の角部屋であり、日当たりも良さそうだった。大通りから一本入っているので騒音も少ない。

いいじゃないか!

当時の私はとにかく早く済むところを決めたいという気持ちが強かった。なので、この好条件に私は飛びつき、すぐに契約をしてしまったのだ。

そして、早速、引っ越しをした私は、新生活を満喫するべく、数日かけて部屋の整理をした。ようやく、落ち着いて暮らせる雰囲気になってきたとき、私は妙なことに気がついた。

朝、首筋が痒いのである。

鏡で見ると、薄っすらと赤い筋のようなものが見える。これが赤い発疹ならばダニの発生でも疑うところであるが、ダニというよりもミミズが這ったようなあと、というのがぴったり来るような痕跡だった。

また、寝入りばな、ウトウトしているときに首筋にひやり、という感触がすることが度々あった。季節は初冬だったので、その時の私は隙間風かな?と思い、戸の隙間を埋めるような緩衝材や窓からの冷気を防ぐためのシートを買い求めたりした。

しかしその後も度々、首筋に妙な感触がする。数週間後には、食事をしているときに急に首筋を撫でられたような感触がして、びっくりして味噌汁の椀から手を離し、そこいらにこぼしてしまうこともあった。

走行している内に、寝ていると首筋に例の嫌な感じがするとともに、胸が苦しく感じ、うなされることが多くなった。

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