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Kalraの怪談

第24章 二十四夜目:シオミ人形

「みまかりそうろう、みまかりそうろう〜」
「おんけのせいれいいんのみまかりそうろう」
「あな、おそろしや、おそろしや」

しばらく静かになったあとに、今度は女性の声がした。

「あな、おそろしや、しかれども、われらをうとみしものぞ
 われらもようようこころやすらかになりぬるものよ」
「いやさ、そのようなことはいうまいて」
「いやさ、いうまいて」

聞き取れたのはこんな感じのことだった。ところどころ言葉遣いが難しくてわからないところがあったが、どうやらこの女性らはこのようなことを言っていたらしい。

ー考えてみれば、あの人も気の毒なことだ。
ーああ気の毒だ
ー南の池のそばに生えている木に頭を挟まれた「くちなわ」がもがき苦しんでいることで、病にかかって「みまかる」のだから。
ーああ、気の毒で恐ろしいことだ。
ーあの「くちなわ」さえ助けられれば、そうならずに済むのになあ
ーああ、そうだがなあ
ーそんな恐ろしいことを言うものではない
ーたしかにそうだった、そうだった
ー我が君が申し告げたことぞ、確かに申したものぞ
ーああ、そうだった

この女性たちの声以外にも、良く内容は聞き取れなかったものの何人かの男女がボソボソと話す声が聞こえたとのことだった。

「結局、朝起きたときには別になんということもなく、ああ、夢だったんだって思っていた。そもそも、何を言っているのかもよくわからなかったんだ。」

恐ろしかったのは、このあと、程なくして、祖母が肺の病気にかかって寝込んでしまったことだった。呼吸がしにくいらしく、しょっちゅうひーひー、ぜーぜーと苦しそうにしていた。あちこち病院に見せたけれども、症状は一向に良くならず、次第に悪化していった。6月には食事もとれなくなり、入院することになり、7月にはそのままあっけなく死んでしまった。

「それで、私、あの夢のことを思い出して、南の池に行ってみたの。そうして、池の周りの木を見て回ると、一本の木の枝に、干からびた蛇が絡みついていたんだ」

それで、F子は「くちなわ」を辞書で調べ、それが「蛇」のことであること、「みまかる」という言葉が古語で「死ぬ」という意味であることを知った。

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