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Kalraの怪談

第25章 二十五夜目:招く海

【招く海】

冬も真っ盛り、雪も降ろうという季節だが、俺が体験した昨年の夏の終わりの話を聞いてほしい。

社会人3年目の俺は、珍しく大学の同級生たちと4人で旅行に来ていた。一泊二日、海で遊んで、飲んで食べて、温泉に入ってと、まあ、そんな計画だった。目的地に着いて、まず海でひと泳ぎし、浜辺でゴロゴロしたり、海の家で買ったものを分け合って食ったりと、そこそこ満喫した。

宿はちょっといいめのホテルだった。部屋は確か11階だったと思う。部屋の窓からは海を見下ろすことができた。日が暮れるまで遊んでいたので、宿から見えたのは、真っ暗な海がたゆたう姿だけだった。

☆☆☆
夕食時は小さな座敷に案内された。そこに中居さんが料理を運んできてくれるスタイルだった。先付け、お造り、小さな鍋、肉料理、それと茶碗蒸しもあったかもしれない。まあ、こういったホテルにありがちな夕食だったが、それなりに美味かった。

俺たちについてくれた中居さんは明るくて、色々と気さくに話をしてくれたのもあって、仲間4人、ビールを飲みつつ、夕食をつつきながら、大いに盛り上がった。

そのうち、仲間の一人であるAが中居さんに、
「この辺に何か怖い話はないのか?」
と聞き出した。Aは昔から怪談が好きだった。

「怖い話ですか・・・」
中居さんは小首をかしげ、しばらく考えていたが、はたとと思いついた風で、
「そういえば、目の前の海、ちょっと人を呼ぶらしいですよ」
「人を呼ぶって?」
Aが身を乗り出す。俺や他の二人も興味はあった。
「あんまり大きな声じゃ言えないんですけど、この辺の海は海難事故が多いんです。毎年のようにというわけではないんですけど、何年かに一人は亡くなられている。特に、晩夏から秋にかけてが多いですね。多くは、昼間に泳いでいて、流されたりしてということなんです。まあ、それだけだったら普通なんですけど・・・」
中居さんはビールを片付けながら続ける。
「中に、とても変な亡くなり方をする方がいらっしゃるんです。夜中に、海に一人で入って、そのままーという」

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