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Kalraの怪談

第25章 二十五夜目:招く海

その時、突然、ぐい!と腕を後ろに引っ張られた。

え?!

振り返ると、Aが俺のことをすごい形相でにらみながら腕を引いていた。

「お前!何してんだ!正気か!!」

え?だって、あそこに人が

俺は振り返る、しかし、そこにはさっきまでいたはずの人の頭の影がなかった。沈んでしまったのだろうか?いや、おかしい。Aには見えていないようだ。
Aは俺を引きずるようにして海岸まで連れて行った。気がつけば、胸のあたりまで水につかっていたらしい。

息を切らせて、二人で海岸に腰を下ろした。
「お前、何してんだよ・・・もう少しで死ぬところだったぞ!」
Aは息を弾ませながら言う。

Aによると、夜中に突然俺が部屋を飛び出したものだから追いかけてきたらしい。そうしたら、俺がまっすぐ海に突っ込んでいく。慌てて、引き止めた、とそういうわけだった。ちなみにAは浴衣のままだった。

俺が見ていた影のことも言ったが、Aには全く見えていなかったらしい。
とにかく部屋に帰ろう、と俺たち二人はホテルに向かって歩き始めた。

途中、ふと、後ろを振り返ると、海から上半身だけ出しているような人影が手招きしているのが見えた気がした。

しかし、あのあたりはとてもじゃないが、足がつくところではない。ここで、やっと思い至った。

そうか、『呼ばれていた』のは、
俺だったのだ。

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