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自殺紳士

第2章 Vol.2:理由のない命

土地神だろうか。神社が見える。
 男と私は神社に入った。
 早春の肌寒い季節だったが、
 鎮守の森は、静かで清涼で、心地が良かった。
 石造りの椅子に腰掛ける。

男は、「元気出しましょうよ」とか
 「死ななければ楽しいことあるかもしれないし」
とか、ありきたりな事を言っていた。

別に気の利いたアドバイスではなかった。
 無理もない。男は、ただ単に「死にたい人がわかる」だけの普通の人なのだ。

哲学者でも、カウンセラーでもない。
宗教者でも、精神科医でもない

生に対する根本的な問に、快刀乱麻の答えを出せるわけがなかった。

でも、そんな男の存在が、私には心地よく感じた。

きっと、私が何かを話せば、この男は聞くだろう。
 真剣に、聞くだろう。
 そして全霊で考えるのだ。私のために考えてくれるのだ。

私は擦り切れていた。
 擦り切れて疲れ果てていた。

与えることばかりだと思っていた。
 与えられることなどなかった。

そんなふうなアンバランスに、
 この男は気づかせてくれた。

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