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自殺紳士

第2章 Vol.2:理由のない命

「生きている、理由がないんだ」

私は言った。
「会社でも家でも、私は部品のひとつだ、
 私という人間ではなく、
 私という機能を求められているだけだ。

 私がいなくなれば、
 別の誰かが私の機能を肩代わりする。」

男は真面目に聞いていた。
「でも、死んだら、誰かが悲しみませんか?」
変わった男は、至極まっとうなことを言う。

「悲しむかもしれないけど、
 永遠に悲しいわけではないだろう。
 それほど強い生きている理由がないんだよ。
 それなら、しんどいだけだ。
 なんだか、擦り切れて疲れてしまったようだ。」

言いながら、私は思っていた。

ああ、私は疲れていたのだ。

誰にも、こんな話はしたことがなかった。
 誰も、私のことなど、かまわないと思っていたからだ。

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