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自殺紳士

第4章 vol.4:死なない女性

【死なない女性】

「また、あなたなの?」
女性は気だるそうに顔を上げ、
 声を上げる

喪服のような黒服に
 かろうじて黒ではない濃紺のネクタイを締めた男は
困ったように軽く嘆息して女性を見た

「だって、あなた、まだ死ぬ気でしょう?」
男の声は、責めるような呆れるような、
そんなニュアンスを含んでいた

頬杖をついて男を見上げていた女性は、
 しなだれるように机にうつ伏せ、顔だけを横にしている

「わからない人ね」

「わかりません」

男も女性の横に、少しだけ距離をおいて座る

「わかりません。あなたからは死の気配が消えない。
  もう7年経ちますよ。こんなにぼくのことが視えているなんて」

「別にいいでしょ。
  まあ、構わないでと言ったところで」

女性は視線を窓の外にやる

「「これが僕の役目ですから」」

男と女性は奇しくも同じ言葉を口にした
女性は笑う

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