自殺紳士
第4章 vol.4:死なない女性
「あなたも大変ね」
「そう思うなら、死ぬなんて考えないでほしいんですけど」
「考えておくわ」
女性は立ち上がり、キッチンに行く
「ねえ、お腹すいてない?パスタ食べる?」
「話したと思いますが・・・」
「知ってる」
女性は、男が空腹も覚えず、年も取らないことを知っていた
「でも、食べられるんでしょ?」
「まあ・・・」
結局、男は女性の作ったアスパラの入ったパスタを食べ、部屋をあとにした
女性は、誰もいなくなった部屋でまた、机に頬杖をつく
ぼんやりとさほど内容のないTVを眺めている
男は女性のマンションを出る
部屋を見上げて女性がかつて言った言葉を思い出していた
「死は私の友達
いつでも死ねると思うから
生きていかれる・・・って」
「本当に困った人だ」
それで、次はいつ訪ねようかと思案しながら歩く
春の日だった