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自殺紳士

第5章 Vol.5:底辺の人

☆☆☆
今、僕は正社員として、小さい会社の事務の仕事を得ていた

そして、今、僕の目の前に、
これから僕の妻になる人がいる

仕事帰り、いつもの喫茶店、
何度目かの昔の話をした時に、
彼女は僕に無邪気に尋ねた

「そんなに大変だったのに、よくがんばれたねーって、いつも思う
 私だったら、きっとへこたれちゃう」

僕は返答に困った
なぜなら、僕は僕がどうやって頑張ったのか
よく覚えていないからだ

でも、一番ひどい状態のときのことは、今でも覚えている
「きっと、頑張る力が違うんだよね、君」
彼女は笑う

僕もつられて笑った

どういうわけか、隣の席でコーヒーを飲んでいる
 喪服のような黒いスーツに
 かろうじて黒ではない、濃紺のネクタイの男が

くすりと笑った気がした

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