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自殺紳士

第6章 Vol.6:花火大会の夜

歓声が上がる
どーんと大きな花火が中空に鮮やかな痕跡を残す
フィナーレが近いのだろう

「花火が終わったら、どうされるんですか?」
男性は尋ねた
相変わらず視線は空ではなく、女性を捉えている
女性の行動を警戒しているようだった

女性は初めて、男性の方を見た
瞬間、一際明るい光を放つ花火が上がる
その光で逆光となった女性の顔の表情は
影になって見えなくなった

「私、花火が終わったら、この世にいない予定ですから」
どんな表情をしたのだろう
また女性は屋上の手すりにもたれ、中空を見上げる

青い光が女性の横顔を照らした
「どうしてですか?」
男性は、少しだけ、女性に近寄る
「話・・・しませんか?」

『・・・・・・』

女性の唇が動く、が
花火の音にちょうどかき消されて男性はその内容を聞き取れなかった

ひらり、と女性は身軽に柵を越え、柵の上に腰をかける
男性は慌てて手を伸ばす

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