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自殺紳士

第8章 Vol.8:檻の家

青年がそっと背中に触れた
 ビクッと震えると
慌てて
「背中に触っていいですか?」
と、言った

そうして、今度は、ことさらゆっくり
ほんとうにそっとそっと、触れてくれた

「どこか痛くないですか?」
その言葉が、何故か、胸に落ちて
暖かく感じた

しばらく嗚咽が止まらなかった
 口を抑えて、必死に我慢したけど、
止めることができなかった

「お医者さんに、行きますか?」

青年が言うことは、別に何ら特別じゃなかった
でも・・・それでも・・・

私に・・・私という人に話をしてくれている
気にかけてくれている

そう・・・そうだった・・・

私は人・・・だった

ああああああああああああああああ

口から叫びが溢れた
 苦しみが溢れた
 そうして、何時間たったかわからない

叫び狂う私のそばに、
 その青年はずっといてくれた

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