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自殺紳士

第9章 Vol.9:死にゆく女性(ひと)

【死にゆく女性(ひと)】

「こんばんわ」

黒いスーツ、かろうじて黒ではない濃紺のネクタイを締めた青年が
女性を訪ねていた

真っ白い病室
テレビとラジオ
白壁に掛け時計
何枚かのメモ用紙と鉛筆
壁に余白の多い明るいタッチの花の絵

そこには、彼女自身のものはほとんどなかった

白が多い空間に
黒い青年は奇妙な存在感を持っていた

女性は古希に近い

乾燥した硬そうな髪の毛を
きれいにひとつにまとめている
簡素な模様の着物のような病院着を着て
ベッドの上に座っていた

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