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自殺紳士

第9章 Vol.9:死にゆく女性(ひと)

ふふ、っと女性は笑った
「あなたはいつもどこからいらっしゃるの?」
青年は頬を指で掻きながら
「私は人から視えていても、観えないので、
 普通に玄関から入ってきました」
と、不思議なことを言った

女性はその言葉をあまり気に留めている様子もなかった
そもそも、質問への答えを期待している風もなかった

彼女は、ふと窓の外を見た
見ても、別に何があるわけではない
夕闇が空を紺色に染め始める中
そこには、誰そ彼に沈む、見慣れた街並みがあるだけだった

「死にたいわ・・・」
女性はポツリとこぼした
青年はじっと傍らに座っていた

「どうしてこの国には安楽死の制度がないのかしら」
「ねえ・・・?」
青年は、この女性が死なないことを知っていた
正確に言えば、死ぬ手段を有していないことを知っていた

どのような自殺方法であれ、
今のこの人には難しすぎるのだ

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