テキストサイズ

自殺紳士

第9章 Vol.9:死にゆく女性(ひと)

ただ、死にたい思いだけが在った

「黙っていてもあと、数カ月もない生命で
 死にたいなんて滑稽かしら?」
「でも、生きていれば、負担になる
 あの子の重荷になってしまう」
「どんどん私は弱っていく
 あの子は、そんな私を見て悲しそうな目をする」
「もう少しで私の四肢は動かなくなる
 意識も朦朧とするでしょう
 話すことも
 視ることも
 聴くことも
 もう、できなくなる」
「とても・・・こわいわ」

青年は何も言うことはできなかった

「あなたが死神なら良かったのに」
「もし、その手で私の首を絞めてくれるなら
 私は喜んでこの首を差し出すのに」

「僕は・・・」
青年はカラカラに乾いた喉から絞り出すように言う
「僕には・・・それは・・・できないんです」

「知ってるわ」
女性は窓に目を向けた
震える手で自分の頬に触れる

ストーリーメニュー

TOPTOPへ