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自殺紳士

第10章 Vol.10:地下鉄の駅

いや、違う
 黒いスーツ、かろうじて黒ではない紺色のネクタイをしめた青年が
 息を切らして
 私の腕をつかんで、私をホームに引き戻していたのだ

電車が目の前を轟音とともに過ぎる
 窓の灯がチラチラとフラッシュのように瞬く

尻餅をついている青年を見て
やっと、私は理解した

今、自分は死のうとしていた・・・

仕事に殺されようとしていた
 会社に殺されようとしていた

怖くて 体が震えた
 震えて 泣いていた

眼の前で終電が出発した
 私はみっともないくらい泣いていた

そんな私の腕を
青年はずっと掴んでいた
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