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自殺紳士

第11章 Vol.11:いらない人

【いらない人】

私はいつの間にか白色の錠剤が入った瓶を取り出していた

頭がぼーっとしている
世界がぎゅーっと押し寄せてくるようだ

息苦しい
苦しい
苦しい
誰か助けてほしい

でも…

私は、ここに助けが来ないことを知っていた
私が一番、そのことを知っていた

アパートの一室
誰もいない
誰もいたことがない

あゝ
胸が苦しい

早くこの苦しさをなんとかしたい
この苦しさを消してほしい

私は瓶から錠剤を3〜4粒取り出して口に放り込んだ

苦しさは変わらなかった
吐き気がする
 内臓を全て吐き出したい
心を胸からえぐり出し
虚空に投げつけてしまいたい

早く早く早く・・・

私は次々と錠剤を口に入れた
それは小さな子がぼんやりと
ただ自動的にラムネを口に運んでいるようだった

指先がしびれてくる
 薬が効いてきたのかもしれない
これで、少しは楽になるだろうか

一瞬
 『もう目が覚めないかもしれない
  死んでしまうかもしれない  』
という思いが過ぎったが

それはそれで喜ばしいことだった

だって、
私は要らない人だったから

ふらりふらりと頭が揺れて
ああ、これで・・・
そう思ったとき
アパートの扉が激しくノックされた

「ちょっと、誰かいませんか!?」

誰かがワタシを呼んでいる・・・?

私はフラフラと扉に近づき、鍵を開けた
私が扉を開けるより前に
扉が開いた

そこには知らない男性が立っていた

黒い服
 黒に近い濃紺のネクタイ
年齢は20代前半くらいだろうか

誰?

そう思った途端、私の意識は深い暗闇に吸い込まれた

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