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自殺紳士

第12章 Vol.12:宵闇を歩く

【宵闇を歩く】

『死んでほしい』

別に、大した言葉ではないと思っていた
そんな言葉に影響されるほど弱くはないつもりだった

妻が私に向けた言葉
  涙を浮かべて投げつけてきた言葉

その日以来
  私は夜、家にまっすぐ帰らない

ずっと宵闇の中を歩きながら
 ただただ、妻と子が寝るのを待って
 そして帰る

腹が立つのか
 辛いのか
  悲しいのか
苦しいのか

ひたすら歩きながら
  そして、気がついた

嗚呼
 俺は サビシイ のだと

帰る場所がないというのは
 こんなにも人の身体を冷やすものなのだろうか
誰ともつながらない心というのは
 こんなにも弱くなるものなのだろうか
人の悪意に晒され続けることが
 これほど命を弱らせるものだろうか

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