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自殺紳士

第17章 Vol.17:逃げるひと

☆☆☆
車から降りた俺を青年は追いかけてきた。

そして、なおも俺に
話をしましょうよ、とか、
何か力になれるかもしれないし、などと言ってくる。

その言葉が、
そのひとつひとつが、
これまでの会社での出来事に重なっていった。

『わからないんだったら教えるからさ』
『今はもう、そういうやり方じゃなくてさ』
『なんで、そんなに効率悪いやり方で・・・』
『もっと、こうした方が』

「うるせえ!!」
俺はたまらず、怒鳴り声を上げた。

みんな、そうだ。
俺ができないと決めつけて、
あれこれ、教えたがる。

成績が上がらない、実績が取れない、
だったら、こうしたら、ああしたら、
もっと、こういうのを学んだ方が・・・

ああ!そうかよ、そうかよ!
俺が馬鹿だから同期よりも昇進遅れて、給料安くて!
そう言いたいだろ?!

負けてねえよ、全然、あんな奴らに!
あんな上ばかり見てへーこらして
ゴマすりばかりうまくて昇進した奴らなんかに、
俺は負けてねぇ!

顧客?
俺が大事にしているのは小さい顧客なんだ
触れあいなんだよ!
それが、営業ってもんだろ?

それを数字が上がらないだの、なんだの
新しい方法を学べだ、パソコンスキル上げろだの

そんなことに時間使うくらいなら、俺は顧客のところ行って茶飲んで関係つけて
・・・
そうやって・・・そうやってやってきて・・・

いつの間にか俺は、
ひとりで怒鳴り散らしていた。

腸が煮えくり返るほどの怒りを、
ひたすらに青年に向かって吐き出していた。

その間、青年は、何も言わなかった。

狂ったように思いをぶちまけた俺は、
ついに疲れて車のそばにしゃがみ込んだ。

胸の中には黒々とした憎しみが
俺を認めなかった周囲への怒りが
行き場をなくして渦を巻いていた

俺がしゃがみ込んで、たっぷり3分ほどたった時
青年がポツリと言った。

「うまく・・・いかなかったん・・・ですね」

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