
Injured Heart
第12章 こども side.A
【Wounded Child (Side A)】
ーあの子は…
雪一はすれ違った6歳くらいの男の子を
目で追った
青いジャンパー
半ズボン
もうすぐ日が暮れる街を
その子は一人で小走りにかけていった
「高村?」
雪一はその子を知っていた
去年の冬
傷だらけでその子は泣いていた
たった一人
公園のベンチで
雪一は涙を拭い
家を尋ねたが
その子は答えなかった
しばらく戸惑っていると
母親らしき人が現れた
『早く来てちょうだい。お願いだから!』
震える手でその子の肩を掴んだ
「どうかしたか?」
雪一のことは目に入ってないようだった
女性はその子の手を引いて、
立ち去ろうとしたが
雪一はその手を掴んだ
掴んでしまった
その子の手が千切れそうに視えたからだ
女性は目に見えて戸惑った
『その子、きちんと診せたほうがいい』
『あと、あなたも』
その女性も深く傷ついていた
『誰かに助けてもらったほうがいい』
雪一が言うと
女性の目から涙がこぼれた
その後、どういうやり取りをしたか
良く覚えてはいない
その親子とはそれきりだった
でも、走り去る後ろ姿に
あの時のような傷は見えなかった
ーあゝ 元気になったんだ
雪一は、ふと我に返った
そうだ、浅井と一緒だった
浅井に向き直った
「お前、たまに遠くなるよな」
浅井は言う
浅井は傷ついてない
彼は極めて頑丈な男だった
「そうか?」
我ながら間の抜けた返事だが
とっさに他の言葉が出なかった
浅井は
仕方がないな
という表情をした
秋の風がそよと過ぎる
ーあの子は…
雪一はすれ違った6歳くらいの男の子を
目で追った
青いジャンパー
半ズボン
もうすぐ日が暮れる街を
その子は一人で小走りにかけていった
「高村?」
雪一はその子を知っていた
去年の冬
傷だらけでその子は泣いていた
たった一人
公園のベンチで
雪一は涙を拭い
家を尋ねたが
その子は答えなかった
しばらく戸惑っていると
母親らしき人が現れた
『早く来てちょうだい。お願いだから!』
震える手でその子の肩を掴んだ
「どうかしたか?」
雪一のことは目に入ってないようだった
女性はその子の手を引いて、
立ち去ろうとしたが
雪一はその手を掴んだ
掴んでしまった
その子の手が千切れそうに視えたからだ
女性は目に見えて戸惑った
『その子、きちんと診せたほうがいい』
『あと、あなたも』
その女性も深く傷ついていた
『誰かに助けてもらったほうがいい』
雪一が言うと
女性の目から涙がこぼれた
その後、どういうやり取りをしたか
良く覚えてはいない
その親子とはそれきりだった
でも、走り去る後ろ姿に
あの時のような傷は見えなかった
ーあゝ 元気になったんだ
雪一は、ふと我に返った
そうだ、浅井と一緒だった
浅井に向き直った
「お前、たまに遠くなるよな」
浅井は言う
浅井は傷ついてない
彼は極めて頑丈な男だった
「そうか?」
我ながら間の抜けた返事だが
とっさに他の言葉が出なかった
浅井は
仕方がないな
という表情をした
秋の風がそよと過ぎる
