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サム・チェイシング・アフター 18頁完結

第1章 シグナル


バリラーリはモビルスーツの操縦桿を握りながら顔は下に伏せたままだった

前を見るとあの光景が蘇ってきそうになる


あのギラついた常軌を逸した眼


丸腰の自分にナイフで飛びかかってくる光景



そして


守りきれなかった名も知らぬ少女の顔つき


あのまま逃げ切れていれば、自分はあのあとどういった人生を歩んでいただろう


彼女を連れてどこか遠くの地で暮らすか


それとも彼女の集落に溶け込み、子供を育てていたか


それともアマゾン川のほとりで観光客のガイドでもしながら、ときおり彼女の集落にたくさんの土産物を持っていってやっているだろうか


あの少女の看病により、自分はここまで生きてこれた

あのとき川から引き上げてもらわなかったらサムのように川に流され低体温となり死んでいたかもしれない


そしてあのめくるめく甘美な肉体


浅黒い肌は大地の恵みを与えられているかのよう


重力に逆らおうともしない豊かな胸は歳のわりに垂れていたが、その豊かなふくらみが大自然を思わせる


何度も抱いた彼女のふくよかな身体


薄れかけていた記憶がまざまざとよみがえる


今追われているのは何だ?


オレは素足で森の中を走っているのか?


少女の腕を掴んでいるか?


それとも森を駆け抜けているのはオレの愛機のジム2なのか?


ウォルターもあのサムを見たのか?


いま森の中の斜面を降りていってるのはオレの足か?それともモビルスーツの足?


バリラーリは焦点が合わなくなってきて、動悸が激しくなっていく


ア"ア"ア"ア"アッッ!!!!!


「隊長ッ!止まって下さいッ!
 この先は崖ですッ!止まってッ!?」


通信で若いミゲルの声がコックピットに響いてくるが、すでにバリラーリの耳には届かなかった


「あっ!?」


ミゲルのモニターには崖から駆け飛ぶように足をバタつかせながら落下していく隊長機の姿が映し出されていた


すぅっと吸い込まれていくように落下し、


一瞬の間を置いて地震が起きたかのように地上に激突

大爆発をしてバリラーリの身体は蒸発してしまった


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