
サム・チェイシング・アフター 18頁完結
第1章 シグナル
ナイフは握ったままだったが、その指に力は無く
バリラーリはナイフを取り上げると彼の腹に深く突き刺した
奥まで刺したあと、柄をグリッと回し内臓を掻き出すようにえぐってやった
そのまま斜面に向けて蹴りつけてやると彼は受け身も取れずに斜面を落ちていった
バリラーリも追いかけて斜面を降りていく
その先は激流の川になっており、彼の身体はふわりと浮かんで真っ白な水しぶきの中に消えていった
あれだけの傷を与えたのだ
おそらく助かることはないだろう
バリラーリはもといた斜面の上に戻っていく
格闘したあたりを探すが少女の姿がない
慌てて大声をだしながら草むらをかき分けていくと巨木の蔭に横たわる少女を見つけることが出来た
抱きかかえてみたものの、すでに少女の瞳孔は開きっぱなしとなっており、息もしていない
少女は呆気なく死んでしまった
バリラーリはそのまま少女の身体に覆いかぶさる事しか出来なかった
モビルスーツで逃走劇を続けながら隊長バリラーリは過去の記憶を事細かに思い出してしまった
部下のウォルターの最後の通信は意味不明な絶叫であった
「たしか“サム”と言ってなかったか?」
ウォルターの過去に何があったか詳しく知らないが、エース待遇から自分の隊にまわされてきたのだ、きっと良からぬ事態があったのだろう
エースにもエースならではのトラウマがあるのだろう
「オレも昔のトラウマが蘇てきちまった」
そうつぶやきながらモニターのシグナルを見つめる
前方のシグナルは新兵のミゲルのジム2の機体
その後方から追尾してくるシグナルは一体何なのだろう?
一定の距離を保ちながら自分たちを追い詰めている
さらにまわりは敵の追撃部隊が迫ってきている
正確に自分たちを追ってくるこの光景はまさしく森の中を追いかけてきたあのときのサムと同じだ
まさか、サムの怨霊とでも言うのかッ!?
この地に戻って来たオレを待ち構えていたのか?
あの時川に落ちてすっかり死んだものだとばかり思っていたが、あのときの恨みを今から晴らそうとでも言うのかッ!?
バリラーリは息が出来なくなりそうだった
胸に手を当ててみても、鼓動はしていなかった
