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サム・チェイシング・アフター 18頁完結

第1章 シグナル


ミゲルのモビルスーツはすでにエネルギー残量が残りわずかだった


隊長機も僚機も居ない


孤軍奮闘どころか、キツネ狩りのキツネだ


隊長機の爆発を聞きつけて敵も大編成で捜索に来るだろう


ジャブロー跡地の奪還作戦は失敗

部隊はほぼ全滅

自分には弾薬も燃料も残されていない


せめて敵に一矢でも報いなければ!?


ミゲルのモニターには相変わらず謎のシグナルが追ってきている


“何なんだよ、コイツはッ!?
 こんなことになるなら軍に志願するんじゃなかったッ!”


ミゲルは今更ながら自分の決断を後悔していた


ミゲルはハイスクールを卒業してすぐに軍に入隊した

自分の家を、自分の街を、自分の国を守るため
みずから志願した


と言っても下心がまったく無かったわけでもない


2年先輩に憧れの生徒会長ラクエラについて行ったからだ


キュートなラクエラは学生時代からまわりに一目置かれていた

ヤンチャなアメフト部の連中も、街のチンピラまでもが彼女にだけは良く思われたかった


透き通るような声は決してキンキンしたものではなく、とても耳障りの良い落ち着いた声

校内放送では誰もが聞き入ったものだ


成績優秀なラクエラだったので卒業後の活躍もさぞかし期待されていただろう


そんな彼女は周りの予想を越えていた


彼女は地元の軍に入隊したのだ


ややしもぶくれたぽっちゃり顔だったお嬢さまが、今や街で見かけるとキリリと引き締まったクールな女性士官となっていたのだ


そして彼女はミゲルのことを覚えてくれていた


「あら、貴方…生徒会の役員をしていた子ね
 憶えているわよ」

そのときの屈託のない笑顔は昔の優しそうな少女の笑顔のままだった

後輩に会いに講堂に立ち寄っていたラクエラはひとしきりの役目を終えて後輩へのメッセージの演説をしに母校にやって来ていた


彼女を出迎えた数十名の列の中から、ミゲルだけが名指しで懐かしんでくれたのだ


そのときはなぜだかわからなかった


実は彼女が在籍中に大雨があり、皆がさっさと帰宅していくなかミゲルひとりが雨の中ずぶ濡れになりながら学校のイベントの後片付けをしていた様子を生徒会室から偶然見ていた、と後から聞かされた


それからミゲルは彼女のお気に入りとなっていたのだった


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