
サム・チェイシング・アフター 18頁完結
第1章 シグナル
講堂でのイベント参加も終わり、ラクエラが自分の乗ってきた車に乗り込んで帰ろうとするとき見送りの行列の後輩たちに声をかけた
「この中で町はずれの牧場に行った事ある人は居てる?」
突然の問いかけに誰も応えられなかったが
唯一ミゲルだけが手を挙げていた
「ちょっと用事があるのよ、キミ乗って!」
そう言われて連れ去られるようにミゲルは学校を後にした
「キミらミゲル君だったよね?どうして牧場に行ってたの?」
車の中でサングラスをかけたラクエラが正面を見据えたまま助手席のミゲルに問いかけた
「2年ほど乗馬を習っていたんです、妹と
今は足が遠のいてしまいましたが…」
「そうなんだ!じゃあ叔父さんのレッスンを受けていたのね! あの牧場は私の叔父の牧場なのよ!」
ミケルは知っていた
レッスンの合間、さっそうと乗りこなしている幼い少女の姿を
山あいを越え、ようやく牧場に到着すると久しぶりに会う姪っ子に叔父も叔母もたいそうよろこんでくれた
そして叔父はミゲル兄妹のことも憶えてくれていた
夕飯にも招かれ、ふたりの乗った車が牧場を後にしたときはすでに真っ暗だった
学校まででいいと伝えたのに結局ラクエラはミゲルの自宅まで送り届けてくれた
そして帰るときに「今度一緒に馬に乗りましょう」と連絡先を交換したのだった
憧れの先輩の個人的な連絡先が聞けてミゲルは有頂天だ
反抗期の妹のイヤミも気にならなかったほどだ
それでもラクエラは手の届かない存在だ
連絡先を交換したからといってそこから進展したいとまでは高望みはしない
名前を憶えてもらえただけでも満足だったから
きっと連絡先はそのまま何も起こらないだろう
それでも良かったのに……
次の週明け、早速ラクエラから連絡が来たのだ
特に馬の約束というわけでもなく、隊の日常を教えてくれたりした
何度かのやりとりのあと、本当に牧場へ出掛けることになった!
嘘のような約束!
実際、彼女の車はミゲルの自宅前まで迎えにきてふたりは久しぶりの乗馬を楽しんだ
なかなか身体が覚えて居ないミゲルに叔父はレッスンのサジを投げ、ラクエラが丁寧にレクチャーしてくれた
こうしてふたりの時間はあっという間に終わった
