
サム・チェイシング・アフター 18頁完結
第1章 シグナル
ミゲルの髪の毛は怒りで逆立ち、
全身から汗が噴き出てくる
下顎がカチカチ無意識に鳴り響く
嗚咽と吐瀉物で膝の上は汚れてしまったが、そんなことはもうどうでもよかった
無意識に近い状態のまま、自然とモビルスーツの操縦桿を握り前進させる
シグナルは一定の距離感を保っているため、見晴らしの良い岩場が広がる場所へ誘導させた
シグナルの正体が目視される
巨大な砲塔を持った戦車バギーのようなものだ
だが人の乗っている形跡がない
というのもかなり無茶苦茶な運転で岩場から出てきたので、もし人が乗っていたらただでは済まなかっただろう
それは7年前に放置されたAIで自律行動をとる実験兵器だった
なぜかこのガラクタはミゲルの機体を親機と思い込み、自動追尾して行動していたようだ
ミゲルが乗り込むモビルスーツのシステムが、以前サムと呼ばれた技術者のOSが組み込まれていたことはミゲルにも知らされていない
このロートルな過去の遺物はずっとミゲルの機体についてまわっていたのだ
しかし、そんなことはまったく関係ないミゲルからすれば目の前の兵器は敵であった
しかも因縁の名前が付けられている
すでに頭がブチ切れているミゲルは至近距離から残っていたナパーム弾を撃ち放った
一瞬でまわりが光りに包まれていく
痛みは感じない
でもここで終わるんだな、というのはなんとなくわかった
記憶が飛ぶ直前
誰だったかわからない女の子の顔が
一瞬だけ
一瞬だけ目の前に浮かんできた
彼女は士官の服装をしていて、
街路樹にもたれながら
照れくさそうに笑っていた
こうしてミゲルはすべての苦しみから解放された
「サム・チェイシング・アフター」
おわり
