
サム・チェイシング・アフター 18頁完結
第1章 シグナル
銃を乱射したウォルターは敵の標的となってしまい撃墜された
バリラーリとミゲルのモニターから僚機のシグナルは消えてしまった
「なんてバカなことを……ッ!」
バリラーリは部下を抑えきれなかった
彼は鳴り物入りのエースパイロットであり、そして若者特有の自信家でもあった
上司である自分によく楯突く男だった
彼の若さ故の過ちは過去に何度もあった
制御するのも大変だったが、バリラーリは自分の若かりし頃を思い出させてくれて微笑ましかったものだ
そう、バリラーリは今でこそ大人の対応のとれる機敏な指揮官であるが、若いときは血気盛んな男だった
バリラーリは今でこそ辺境の基地の小隊長におさまっているが過去に特殊部隊「インフェルノ」のメンバーだった
7年前、インフェルノチームは密林の中で激しい戦いをしていた
当時はまだ連邦軍も初の量産体制に臨んでいる状態であり戦争兵器の運用としては遅れをとっていた
当時のジオン軍は空から海から陸からと波状攻撃を重ね連邦軍を圧倒していた
敗走を繰り返していた連邦軍は前線の確保を目的に特殊部隊インフェルノを送り込む
彼らの任務は目の前の障害を排除するだけだった
原住民の村を焼き、田畑に壕を掘り、
木を切り倒し、川を廃油だらけにもした
その甲斐あってか前線は維持できたものの、彼らが立ち去ったあとは焦土と化していた
彼らは障害と見なすと男も女も子供までも撃ち殺し、斬り捨てた
表情を悟られぬよう顔には迷彩のペイントをし、人を殺めるときも何の感情も沸かなかった
そんな彼らにも苦難の戦いがあった
占拠した村を散々なぶり尽くしたあと、敵のジオン軍に奪還されてしまったのだ
それまで鬼神のような戦いをしてきた彼らだったが敵の拷問を怖れ、散り散りに逃げ回った
生き残るためには恥も名誉も無かった
密林の中を裸足で逃げまどい、息を潜め、孤独と空腹に悩まされ、精神的にも追い詰められていった
仲間は次々と見つかり、さらし者にされ、生きたまま焼かれた
若きバリラーリは毎日恐怖の中森の中で隠れていた
それも束の間であった
敵に見つかったバリラーリは森を走り、銃で撃たれ、傷だらけのまま滝つぼに身を投じる
もう死んだものと思われた
自分でもそう思っていた
