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サム・チェイシング・アフター 18頁完結

第1章 シグナル


翌日、少女が慌てて小屋に入ってきた

なにか焦っているようだが全く何が起こっているのかわからなかった


バリラーリは敵が迫ってきたのでは、と捉え少女の手首を掴み外へ飛び出た


小屋に人の痕跡が残っている以上、ここを中心に捜索が広がるだろう
少しでも遠くへ離れなければならなかった


谷をくだり、川を越え、森を、草原を、岩場を乗り越えていく


夜の森の中

ふたりは抱き合って眠っていた

突然、ガサガサッ!と音がして目の前にひとりの男が立ちはだかっていた


少女は怯え、バリラーリは咄嗟のことで言葉も出なかった


男はボロボロの布をまとっていたが、現地の者ではなく、腰のベルトから文明人であることがわかる


だが、その眼は野獣のようにギラつき
髪はボサボサで、とてもじゃないが普通の精神状態では無さそうだった


男はバリラーリのほうはほとんど見ず、ひたすら少女をなぶるような目つきで凝視し続けた

女を求めている


精神的に追い込まれストレス過多となった男は、本能の命令に従っているようだ


少女がバリラーリの背に隠れようとしたとき、初めて男はバリラーリを敵だと認識した


男は右手に持った太い木の棒を振り下ろしてきた


バリラーリは棒をかわし、その手首に手刀を叩きこんだ


男は武器こそ手放さなかったが、痛みに堪えようと動きを止める


バリラーリは思いっきり彼を蹴り飛ばした

こちらに体力が無いため満足な一撃ではなかったが、男も絶食していた様子で異様に体重が軽く、玩具のようにポーンと飛び転がっていった


蹴り飛ばした瞬間、バリラーリは男の首筋に大きなホクロがあったのを見つけた
なんとも見覚えがあったような気がするが、今は気が動転していて思い出せない


いまのうちにバリラーリは少女の手をつかみ、駆け出した

少女を守らなければッ!


追いかけて来にくいようにわざと尖った枝がひしめき合った場所を選んで駆け抜けていく

自分たちの身体も傷だらけになるが、それは追っ手にも同じことが言えるはずだ


それに見通しが良ければいつまでもは逃げ切れないだろう


それに走っているうちに、あの男の首すじのホクロを思い出していた


あれは同じインフェルノ部隊の一員、サムでなかったか?

そうだ
風貌こそ変わってしまっていたが、あれは同僚のサムだ!

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