蜜会…春の揺れ
第1章 春の揺れ
12
「いらっしゃいませ」
「待ち合わせで……あ…いました……」
やはり、夫は、先に待っていた。
「ごめんなさい、タクシーが混んでしまって…」
夢中になって、時計を見なかっただけ…
「あ、いや、大丈夫だよ」
「やっぱり、電車にすればよかったかしら…」
でも、ゆっくりと化粧を直してきたの…
「……とりあえず、コースでいいかな…」
「…………」
黙って、頷く。
「ここは、久しぶりだな」
「ええ…」
夫の探るかの様な、一瞥……
「少し……あ、いや……」
「え…」
「いや、いいん…だ……」
その目は、いつもより艶やかな唇に注がれ…
そして、言葉を呑み込む。
「アンティパストでございます」
前菜が運ばれ…
「さ、食べようか」
「……あ、美味しいわ……」
フォークを持つ、左手指を探ってくる。
「うん………そう…だな…………」
夫の、グラスを持つ手が、微かに震えている…
「ワインも…美味しいわ……」
嘘に酔い…
「そうだな……」
「………………」
胸元が開いたブラウスを、ジッと見つめるその目に、心が痺れ…
「あ、母さんは?………」
夫の、僅かな揺らぎを感じ…
「………ん……別に…………」
それは、わたしの抗い…
「大丈夫みたい………」
「そ、そうか……」
「でも……」
「ん…………」
「明日も……行ってきますね……」
そう、明日も…
明後日も…
できるだけ―――
「あ、ああ、頼むよ…」
グラスの中の、ワインの水面が…
触れてもいないのに、わずかに揺れていた……
蜜会…春の揺れ 終
五月雨へ続く
逢わぬまま
終わることさえ
できなくて
揺れる想いを
胸に隠して
「いらっしゃいませ」
「待ち合わせで……あ…いました……」
やはり、夫は、先に待っていた。
「ごめんなさい、タクシーが混んでしまって…」
夢中になって、時計を見なかっただけ…
「あ、いや、大丈夫だよ」
「やっぱり、電車にすればよかったかしら…」
でも、ゆっくりと化粧を直してきたの…
「……とりあえず、コースでいいかな…」
「…………」
黙って、頷く。
「ここは、久しぶりだな」
「ええ…」
夫の探るかの様な、一瞥……
「少し……あ、いや……」
「え…」
「いや、いいん…だ……」
その目は、いつもより艶やかな唇に注がれ…
そして、言葉を呑み込む。
「アンティパストでございます」
前菜が運ばれ…
「さ、食べようか」
「……あ、美味しいわ……」
フォークを持つ、左手指を探ってくる。
「うん………そう…だな…………」
夫の、グラスを持つ手が、微かに震えている…
「ワインも…美味しいわ……」
嘘に酔い…
「そうだな……」
「………………」
胸元が開いたブラウスを、ジッと見つめるその目に、心が痺れ…
「あ、母さんは?………」
夫の、僅かな揺らぎを感じ…
「………ん……別に…………」
それは、わたしの抗い…
「大丈夫みたい………」
「そ、そうか……」
「でも……」
「ん…………」
「明日も……行ってきますね……」
そう、明日も…
明後日も…
できるだけ―――
「あ、ああ、頼むよ…」
グラスの中の、ワインの水面が…
触れてもいないのに、わずかに揺れていた……
蜜会…春の揺れ 終
五月雨へ続く
逢わぬまま
終わることさえ
できなくて
揺れる想いを
胸に隠して
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