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中毒の処方箋 〜淫らな輪舞曲〜

第12章 飽食の時・亜美(2)

「今日は遅くなるって旦那に言ってきたから」

職場での仕事を終え、二人は遮光カーテンが重く閉ざされたラブホテルの客室に足を踏み入れたとき、私たちを包んだのは、どこか現実味を欠いた静寂だった。

同じオフィスで顔を合わせ、事務的な言葉を交わしているときの彼女――「〇〇さん」という姓の名前の人妻は、そこにはいなかった。いま私の目の前にいるのは、一人の艶やかな雌の匂いを漂わせた「亜美」という名の女性だった。

日常のストレス、誰にも言えない鬱屈、そして互いの家庭や生活の裏側に澱のように溜まった剥き出しの欲望。割り切った関係であることをお互い確認しながら、欲望をただ吐き出すためだけに、私たちは再び身体を重ね合わすことを選んだ。

ベッドの端に腰掛けた亜美の、白いうなじが薄暗がりの中で仄白く浮かび上がっている。若妻である彼女が溜息に似た小さな吐息を吐き出すたびに、ホテルのドアを潜る前に感じた緊張の糸が自分の中でピンと張り詰めるのを感じた。

「……ねえ、本当にいいの?」

亜美が振り返る。その瞳には、怯えと、それを凌駕する熱い期待が混ざり合っていた。

「ここまで来て、そんなこと言わないでください」

彼女は自嘲気味に微笑み、私の腕に華奢な腕を置いた。

指先から伝わる体温は驚くほど高い。その肌に触れた瞬間、私の脳裏をよぎるのは、彼女の帰りを呑気に待っているであろう亜美の旦那の姿だ。そのガラスのような日常を、私は指先ひとつでヒビを入れようとしていた。

「なんだか、すごく緊張してきちゃった……喉も乾いてきたし……」

亜美ははにかむように笑い、小さな手で額の汗をぬぐった。 お酒の好きな亜美は冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出すと、その1本を私に渡した。グラスに注ぐことすらもどかしく、缶のまま互いに小さく乾杯を交わす。

冷たいアルコールが喉を灼き、胃の底をシュワっと包み込む。ほんの数口ビールをひっかけただけで、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れていった。

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