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君の体温は義務だった

第2章 通知

翌日。

朝起きて、スマホを見る。

天気予報。
ニュース。
仕事の予定。

そして、画面の上にまだ残っている通知。
というか、俺が自分でスワイプして消していないから残っているだけなのだが。

『8月12日 19:00 中央区ハグステーション3番』
『相手:識別番号 H-08341』

別に消し忘れているわけじゃない。
ただ、何となくそのままにしてある。
それだけだ。

◇◇◇

出社すると、昨日までの雨が嘘みたいに晴れ渡っていた。

十二階の開発フロア。
壁面の大型モニターには、いつものようにHUG+のリアルタイム稼働状況が表示されている。

全国接続率。
マッチング処理状況。
ハグステーション稼働率。

インジケーターは全部、正常を示す緑色だ。
それを目視で確認してから、自席についた。

午前中。
共有フォルダに、月次利用者アンケートの集計資料が届いた。

HUG+利用後に任意で回答してもらうアンケートだ。
俺たち開発班がチェックするのは、基本的にはシステム面の評価項目である。

操作性。
通知の可読性。
ステーションの案内表示。
そういったUX的な部分だ。

ただ、資料の最後にある自由記述欄にも、たまに目を通すことがある。

『最初は強い抵抗がありました。でも、終わった後は少し気持ちが楽になりました。』

『一ヶ月間、誰ともまともに会話しない日が続くよりずっと良かったです。』

『相手の方とは初対面でしたが、不思議と安心感を覚えました。』

ディスプレイの文字を静かに眺める。

国が決めた法律であり、国民の義務。
正直、システム運用が始まった当初は、世間からどういう反応が出るのか未知数だった。

見知らぬ人間同士を、月に一度かならず抱擁させる。
言葉の響きだけを見れば、あまりにも強引で滑稽な仕組みにも思える。

けれど。
こうして救われている人間の声があるのも、また動かしようのない事実だった。

「何見てんの?」

隣から牧野が顔を覗き込んできた。

「アンケート。」
「また見てんの?」

今日手に持っているのは、いちごオレか。
ストローの先端を噛む癖、相変わらず直っていない。

牧野はディスプレイの画面を一緒に覗き込む。

「へぇ。」

少しだけ口元を緩めた。

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