
君の体温は義務だった
第2章 通知
「相手ができたら、その辺も治るんじゃね?」
「何が。」
「よく寝れるようになるだろ。」
「……何で?」
「知らねぇよ。添い寝とか?」
「雑だな。」
「じゃあ抱き枕でも買えよ。」
「もうある。」
「あるの?」
「……ある。」
「マジかよ。」
「悪いか。」
「いや、別に。」
牧野がニヤニヤと意地悪そうに笑う。
「じゃあ、それでいいじゃん。」
「何が。」
「恋人いらない理由。」
「関係ないだろ。」
「まあな。」
牧野は笑って、視線を前へと戻した。
俺もつられて小さく笑う。
抱き枕。
寝る時に腕を置く場所がないから使っているだけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
……たぶん。
駅へ向かう道を二人で並んで歩く。
ふと、昨夜見た夢の光景が脳裏をかすめた。
暗い道路。
眩しいヘッドライトの光。
急に遠ざかっていく、誰かの背中。
必死に何かを叫んでいた気がする。
けれど、声が喉に引っかかって出ない。
そこで、いつも目が覚める。
物心ついた頃から、何度も繰り返し見ている夢だ。
大切なものは、何の前触れもなく唐突に消える。
何でもない穏やかな一日が、次の瞬間には終わりを告げる。
だからなのだろうか。
夜眠る前になると、無意識に部屋の中を確認してしまう癖が抜けなかった。
玄関の鍵。
窓のロック。
テーブルの上のスマホ。
ちゃんと全部が、いつもの場所にある。
それを一つずつ目視で確認してからじゃないと、心が落ちつかず、なかなか眠りにつけない。
「……面倒だな。」
「何が?」
前を歩いていた牧野が振り返る。
「いや。」
俺は首を振った。
「何でもない。」
牧野は不思議そうな顔を浮べていたが、それ以上は踏み込んでこなかった。
結婚するか。
誰かと共に暮らすか。
そんな生き方を考えたことがないわけじゃない。
ただ。
自分にとって大切なものができてしまうと、それを失うことがどうしても怖くなる。
それなら最初から、何も作らなければいい。
失う恐怖を味わわずに済む分、その方がずっと楽だ。
……ずっと、そう思っていた。
そう思ってきたはずだった。
「何が。」
「よく寝れるようになるだろ。」
「……何で?」
「知らねぇよ。添い寝とか?」
「雑だな。」
「じゃあ抱き枕でも買えよ。」
「もうある。」
「あるの?」
「……ある。」
「マジかよ。」
「悪いか。」
「いや、別に。」
牧野がニヤニヤと意地悪そうに笑う。
「じゃあ、それでいいじゃん。」
「何が。」
「恋人いらない理由。」
「関係ないだろ。」
「まあな。」
牧野は笑って、視線を前へと戻した。
俺もつられて小さく笑う。
抱き枕。
寝る時に腕を置く場所がないから使っているだけだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
……たぶん。
駅へ向かう道を二人で並んで歩く。
ふと、昨夜見た夢の光景が脳裏をかすめた。
暗い道路。
眩しいヘッドライトの光。
急に遠ざかっていく、誰かの背中。
必死に何かを叫んでいた気がする。
けれど、声が喉に引っかかって出ない。
そこで、いつも目が覚める。
物心ついた頃から、何度も繰り返し見ている夢だ。
大切なものは、何の前触れもなく唐突に消える。
何でもない穏やかな一日が、次の瞬間には終わりを告げる。
だからなのだろうか。
夜眠る前になると、無意識に部屋の中を確認してしまう癖が抜けなかった。
玄関の鍵。
窓のロック。
テーブルの上のスマホ。
ちゃんと全部が、いつもの場所にある。
それを一つずつ目視で確認してからじゃないと、心が落ちつかず、なかなか眠りにつけない。
「……面倒だな。」
「何が?」
前を歩いていた牧野が振り返る。
「いや。」
俺は首を振った。
「何でもない。」
牧野は不思議そうな顔を浮べていたが、それ以上は踏み込んでこなかった。
結婚するか。
誰かと共に暮らすか。
そんな生き方を考えたことがないわけじゃない。
ただ。
自分にとって大切なものができてしまうと、それを失うことがどうしても怖くなる。
それなら最初から、何も作らなければいい。
失う恐怖を味わわずに済む分、その方がずっと楽だ。
……ずっと、そう思っていた。
そう思ってきたはずだった。

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