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君の体温は義務だった

第2章 通知

「悠木くん。」

呼ばれて、ハッと顔を上げる。

高瀬部長が、タブレットを片手にデスクの脇に立っていた。

「感情推定モデルの誤差検証。何か分かりましたか?」
「……おそらくですが、傾向は見えてきました。」

椅子を少し引き、ディスプレイの画面を部長の方へ向ける。

「今日の報告書の件だけじゃなく、過去六ヶ月分の誤判定事例を比較しています。特に、システム上で孤独リスクが『低』と判定された直後に、緊急支援が必要になったケースです。」

デスクトップに保存しておいた分析資料を開く。

「睡眠時間、活動量、心拍変動。既存の主要な指標においては、いずれも異常値は出ていませんでした。」
「つまり?」

一瞬、言葉を詰まらせてから続ける。

「今のモデルが追っているデータ以外の部分で、すでに変化の兆候が表れていた可能性があります。」

高瀬部長は無言で画面を見つめている。

「本人すら自覚していないような、ほんの小さな変化です。」

口に出してみると、どこか不思議な感覚を覚えた。

本人すら気づいていないような心の揺らぎ。
そんなものまで、自分たちはデータとして拾い上げようとしている。

昔なら、「ただの気のせい」や「気分のムラ」で片付けられていたようなものを。
現代の技術で無理やり数値化し、管理しようとしているのだ。

「難しいね。」

高瀬部長がぽつりと呟いた。

「はい。」

正直な答えだった。
人間の感情なんて、もともと目に見えない曖昧なものだ。
それを完璧に数値化して、未来の行動を予測しようとしている。
簡単なわけがないのだ。

「でも。」

部長は画面から目を離さないまま、言葉を重ねた。

「だからこそ、やる価値があると思っていますよ。」

その声には、一切の迷いがなかった。

「数字という客観的な指標があるからこそ、救える命や気づける変化があります。もし、このモデルがもう少し早く異変を拾えていたら……救えた人がいたかもしれない。」

胸の奥に、小さな引っ掛かりが残る。

高瀬部長の言葉に反論したいわけじゃない。
ただ、何かが決定的に違う気がする。
そんな曖昧な違和感だけが、胸の底にくすぶっていた。

けれど。
部長の言っていることも事実なのだ。

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