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君の体温は義務だった

第2章 通知

◇◇◇

休日。

珍しく目覚ましが鳴るより先に目が覚めた。

カーテンを開けると、一面の青空。
爽やかで気持ちの良い天気だが、夏にはそこまで本気を出してもらわなくてもいい。暑いから。

マグカップにコーヒーを淹れ、ソファへ腰を下ろす。

テーブルの上でスマホが震えた。
画面の表示は――母からだ。

「もしもし。」
『陽?』
「うん。」
『元気にしてる?』
「まあ、それなりに。」

受話器の向こうで、母が小さく笑った。

『ちゃんとご飯食べてるの?』
「食べてるよ。」
『野菜も?』
「……たぶん。」
『たぶんじゃ駄目でしょ。』

実家にいた頃から変わらない、いつものやり取り。
二十八になっても、母親という生き物は変わらないらしい。
思わず、少しだけ肩の力が抜ける。

『そういえば。』

母が何かを思い出したように言った。

『今月の抱擁の日、いつなの?』
「十二日。」
『そう。』

電話の向こうで、少しだけ間が空いた。

『良かったね。』
「何が?」

人となら、毎日職場で顔を合わせているのだが。

『陽はそう思うかもしれないけどね。私は、この制度ができて本当に良かったと思ってるよ。』

窓の外で、蝉がけたたましく鳴いている。

『お父さんが亡くなってから、一人で家にいる時間がどうしても長くなってね。……誰とも一言も話さない日なんて、珍しくなかったの。』

母は笑っていた。
けれど、その笑い方は昔から変わらない。
本人が無意識に無理をしている時の笑い方だ。

『だからね。月に一回でも、「誰かが待っている日」が存在するって、思っていた以上に救われるのよ。』

かける言葉が、すぐには出てこなかった。

『もちろん、毎回出かけるのが面倒なこともあるけどね。』

母はくすくすと可愛らしく笑う。

『それでも私は、すごくありがたいと思ってる。』
「……そっか。」
『優しい人だと良いね。』
「何が?」
『今月の、陽の相手。』

俺は思わず吹き出してしまった。

「システム上、識別番号しか分からないよ。」
『そうだったわね。』

母も、ようやく柔らかく心から笑ってくれた。

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