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君の体温は義務だった

第3章 体温

さっきまで腕の中にあった確かな体温と呼吸の余韻だけが、妙に鮮明で、酷く愛おしい。

……変なの。

心の中でぽつりと呟きながら、俺はハグステーションを後にした。

廊下を歩いていると、ポケットの中でスマホが震えた。

立ち止まり、画面を開く。
HUG+アプリからの通知だ。さっきのハグの結果が出たらしい。

《HUGスコアが確定しました》

画面に表示された数値を見て、俺は目を疑った。

HUG SCORE

ストレス改善 +47%
心拍安定 +31%
オキシトシン推定 +62%

今月の健康状態 良好

「……は?」

思わず声が漏れた。

もう一度、画面を凝視する。
けれど、数字は何のバグでもなくそこに居座り続けていた。

「……高くないか、これ。」

普段の自分の平均的な記録を思い返す。
ここまで劇的に数値が跳ね上がったことなんて、今まで一度だってない。

というか、オキシトシン推定プラス62%って何だ。
こんな常軌を逸した数字、見たこともない。

たった十秒。
いや、二回目を合わせてもほんの僅かな時間だ。
ただ見知らぬ相手を抱きしめただけなのに。

彼が突然泣き出したことには驚いたけれど、それ以外は特に特別なことをしたわけじゃない。

そこまで考えて、ふと、あの匂いが鮮明に蘇ってきた。

甘くも爽やかでもない、あの独特な体温の匂い。
腕の中に隙間なくすっぽりと収まった、あの異常なまでのフィット感。

思い出そうとした瞬間、胸の奥がまたあの時のようにぎゅっと締め付けられ、緩んでいく。

「……何だこれ。」

自分の身体に起きている変化の理由が分からず、困惑が深まる。

画面を下にスクロールすると、見慣れた標準のアンケート項目が現れた。

《今回の相手との再マッチングを希望しますか?》

【YES】 【NO】

「……。」

スクロールしていた指がぴたりと止まる。

再マッチング。

別にもう一度会いたいとか、特別な感情を抱いたとか、そういう話じゃないはずだ。
ただ……彼がまたどこかで理由も分からず泣いていたら困るんじゃないか、とか。

……いや、違うな。

「何で俺が心配してんだよ。」

自分自身に呆れるように小さく呟く。

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