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君の体温は義務だった

第3章 体温

もちろん、システム上の仕様としてあり得ない数字ではない。
俺自身、HUG+のシステム開発に携わるエンジニアだ。このアプリがどうやって数値を弾き出しているのかは誰よりも知っている。

心拍数の推移。
皮膚伝導度によるストレス変化。
接触時の体温上昇と、自律律動。

あらゆる生体データをアルゴリズムに掛け合わせ、利用者の精神状態や適合度を推定する。
だから、このスコアが出たロジック自体は頭で理解できるはずだった。

理解できるはずなのに。
なぜか、胸の奥がつっかえて腑に落ちない。

さっきの十数秒間の光景が、フラッシュバックする。

腕の中にすっぽりと収まった、華奢な身体。
触れた瞬間に伝わってきた、かすかな震え。
胸元にしみ込んだ、温かい涙。

そして——最後に見た、あの奇跡みたいな笑顔。

「……。」

操作のないスマホの画面が、すっと暗くなった。
暗転した黒いディスプレイに、自分の顔がぼんやりと映り込む。

いつも通りの、どこかくたびれた眠そうな目。

その情けない自分の顔を見つめながら、ふと、今まで考えもしなかった疑問が脳裏をよぎった。

俺は今まで、この画面に並ぶただの数字だけを見て、一体何を分かったつもりになっていたんだろう。
システムの裏側を知り尽くしているはずの自分が、本当は何も理解していなかったんじゃないか——。

けれど。

「……考えすぎか。」

頭を振って思考を打ち消すと、スマホをポケットへと突っ込んだ。

ハグステーションをあとにし、夏の夜の空気が残る駅の方角へ向かって歩き出す。

さっきまでの疑問を振り払うように足早に進む俺のポケットの中で、冷たい端末だけが静かに収まっていた。

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