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君の体温は義務だった

第3章 体温

牧野は驚く様子もなく、急かすこともなく静かに耳を傾けていた。
その気負わない空気のせいで、俺はついぽつぽつと話を続けてしまった。

「ハグが終わっても、しばらくお互い動かなくて。」
「うん。」
「で、急に涙が落ちてきてさ。」
「……うん。」
「大丈夫かって聞いたら、『分かんない』って。」

牧野は何も挟まず、黙って話を聞いている。

「だから……」
「だから?」
「……もう一回、抱きしめた。」

その瞬間、牧野の足がピタリと止まった。

「……お前から?」
「……。」
「陽から?」
「うるさい。」
「いやいや。」

牧野が笑いを必死に堪えている。
まあ、全然堪えきれてないんだけど。

「いや、無理だろ。お前からもう一回ハグしようって言うの、全く想像できねぇんだけど。」
「俺だって自分の行動が想像できてねえよ。」
「いやいやいやいや、想像できてないどころの騒ぎじゃねえよ! しっかり自分からおかわりしてんじゃん!」
「うるせえなあ。泣いてる人間をそのまま帰すのも、なんとなくどうかと思っただけだろ。」
「なるほどねぇ。」
「何だよその目は。」
「いや。」

牧野が意地悪な笑みを引っ込め、真面目な顔で俺を見つめた。

「優しいじゃん。」
「普通だろ、これくらい。」
「はいはい。」

言い合いながら、また二人で歩き出す。

少し間を置いてから、牧野が尋ねてきた。

「で、二回目は?」
「……少し落ち着いた。」
「相手が?」
「うん。」
「そっか。」
「……安心したみたいに、ちょっと笑ってた。」
「なるほど。」

牧野はそれ以上何も言わず、ただ前を向いて歩いた。

……なんだ、その顔。

絶対に何か良からぬことや勘繰りを頭の中で転がしている顔だ。

そして、しばらくの沈黙のあと。

「……また会えるといいな。」
「……どーだかな。」

素っ気なく返した。

相手を決めるのは自分たちじゃない。AIだ。
次に誰とマッチングするかなんて、神のみぞ知る……ならぬ、アルゴリズムのみぞ知る領域だ。
だから、昨日の彼とまた会える保証なんてどこにもない。

それなのに。

胸の奥の深いところが、ほんの少しだけ、熱く引っかかっていた。

——もし、もう一度会えたら。

そんな青くさい考えが一瞬でも脳裏をよぎったことなんて、俺は口が裂けても牧野には言わなかった。

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