
君の体温は義務だった
第3章 体温
午後。
引き続きPC画面を眺める。
午前中から見ているログが整然と並んでいた。
心拍。
睡眠。
活動量。
ストレス推定値。
いつもなら見慣れた数字だ。
けれど、今日はどうにも集中できない。
今朝の、駅の階段を思い出す。
人の流れの中で、ふと目が合った。
あの人が、少しだけ笑った。
それだけだ。
名前も知らない。
何をしている人なのかも知らない。
ただ、数日前に一度抱きしめただけの相手。
それなのに。
思い出すたび、胸の奥が妙に軽くなる。
「……。」
また画面に視線を戻す。
今度こそ仕事に集中しようと試みる。
けれど、数秒後にはまたあの瞬間を反芻していた。
「……なんなんだよ。」
小さく呟く。
この状態の原因を探そうとしてみる。
寝不足、疲労、ストレス。
どれも多少はあるはずだ。でも、今のこの妙な心地よさを説明するには、どれもしっくりこない。
仕事柄、不具合が起きた時はログとデータを見る。
何が変わったのか。
いつから変わったのか。
何がトリガーだったのか。
そうやって要因を絞り込んでいく。
だから、自分の体で起きていることも同じようにロジカルに考えてみる。
昨日までと今日で、一体何が違う?
睡眠時間はいつもと同じくらい。
仕事の負荷もいつも通り。
食事のメニューも変わっていない。
周囲の環境にも、特に変化はない。
なのに――口元だけが勝手に緩む。
「……。」
ふと、画面の端に表示された数値が目に入った。
感情推定モデルの検証データ。
人間の状態を、すべて数字に置き換えたもの。
この数字が正しければ。
『この人は安心している』
『この人はストレスを感じている』
『この人は孤独を感じている』
そんなふうに、人間の内側を推測できる。
……便利なものだ。
少なくとも、俺はそう思って開発に携わってきた。
でも。
「じゃあ、今の俺は何なんだ。」
誰に聞くでもなく、ぽつりと呟く。
引き続きPC画面を眺める。
午前中から見ているログが整然と並んでいた。
心拍。
睡眠。
活動量。
ストレス推定値。
いつもなら見慣れた数字だ。
けれど、今日はどうにも集中できない。
今朝の、駅の階段を思い出す。
人の流れの中で、ふと目が合った。
あの人が、少しだけ笑った。
それだけだ。
名前も知らない。
何をしている人なのかも知らない。
ただ、数日前に一度抱きしめただけの相手。
それなのに。
思い出すたび、胸の奥が妙に軽くなる。
「……。」
また画面に視線を戻す。
今度こそ仕事に集中しようと試みる。
けれど、数秒後にはまたあの瞬間を反芻していた。
「……なんなんだよ。」
小さく呟く。
この状態の原因を探そうとしてみる。
寝不足、疲労、ストレス。
どれも多少はあるはずだ。でも、今のこの妙な心地よさを説明するには、どれもしっくりこない。
仕事柄、不具合が起きた時はログとデータを見る。
何が変わったのか。
いつから変わったのか。
何がトリガーだったのか。
そうやって要因を絞り込んでいく。
だから、自分の体で起きていることも同じようにロジカルに考えてみる。
昨日までと今日で、一体何が違う?
睡眠時間はいつもと同じくらい。
仕事の負荷もいつも通り。
食事のメニューも変わっていない。
周囲の環境にも、特に変化はない。
なのに――口元だけが勝手に緩む。
「……。」
ふと、画面の端に表示された数値が目に入った。
感情推定モデルの検証データ。
人間の状態を、すべて数字に置き換えたもの。
この数字が正しければ。
『この人は安心している』
『この人はストレスを感じている』
『この人は孤独を感じている』
そんなふうに、人間の内側を推測できる。
……便利なものだ。
少なくとも、俺はそう思って開発に携わってきた。
でも。
「じゃあ、今の俺は何なんだ。」
誰に聞くでもなく、ぽつりと呟く。

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