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君の体温は義務だった

第2章 通知

リュックを下ろしPCを開きつつ、起動を待つ間にさっき自販機で買ったコーヒーを一口すする。

苦い。
まだ頭は完全に起ききっていないらしい。

社内チャットには、昨夜の自動監視AIから届いた通知が何件か並んでいた。
どれも優先順位が低く、見慣れたエラーログばかりだ。

問題が発生すれば、監視AIが真っ先に騒ぎ立てる。
俺たちは、そのあと始末をする係。

面倒だが仕方がない。
どれだけAIが優秀になろうと、最後の判断と責任だけは人間の仕事なのだから。

壁の時計を見る。
九時。

「朝会始めまーす。」

部屋の奥から声が飛んだ。
各自ノートPCを抱え、ミーティングスペースへゾロゾロと集まっていく。

俺もコーヒーを持ったまま席を立った。

◇◇◇

「おはよう。じゃあ始めようか。」

部長はタブレットを片手に全員を見回した。

「まずは昨夜の定例更新、お疲れさま。大きな障害はゼロ。ありがとう。」

誰かが小さく拍手を送る。

「今月もマッチング通知は無事配信完了しました。」

部屋の空気が少しだけ仕事モードに切り替わっていく。

「今月の履行予測率は九八・七パーセント。AIの推定では過去最高です。」

部長は満足そうに笑みを浮かべた。

「いい数字ですね。」

誰かがそう口にすると、部長はタブレットを軽く閉じる。

「数字はあくまで結果です。」

少しだけ間を置いて、部長は言葉を続けた。

「私たちが本当に見ているのは、その数字の向こうにいる人間です。」

部屋の雑音が消え、静かになる。

「抱擁義務が始まってから、孤独死は減りました。重度のうつ病も、自殺率も、少しずつですが改善しています。」

モニターには統計グラフが映し出される。
綺麗に描かれた、右肩下がりの折れ線グラフ。

数字だけを見れば、この制度は社会的に大成功と言っていい。

「もちろん課題もあります。」

部長は次のスライドを表示した。

『予定変更申請 増加傾向』

『履行直前キャンセル』

『ペア成立後の辞退理由分析』


「今月も再マッチングが発生します。アルゴリズム班は午後のバッチ処理までに対応をお願いします。」

「了解です。」

あちこちから短い返事が返る。

「それから。」

部長の視線が、すっとこちらへ向けられた。

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