
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第24章 再会
夢五郎と共に月照庵に帰った泉水を、光照と伊左久が迎えた。特に光照は泉水を抱きしめて泣いた。その後、とにかく今は身体が大切と、無理に布団に押し込まれる形となった。
その枕許に、光照が座っている。
「私も愕いたのですよ。あの子は―頼房は人前で滅多と動じることはありませんが、今夜だけは違いました。あなたがいなくなったことを告げた途端に、顔色を変えて飛び出してゆきました。一体、あなたに何をしたのだ、あなたの身に何が起こったのだと、いきなり食いかかってきたのですよ。それで、あなたが身ごもっていることも頼房に告げざるを得なかったのです。そのことについては、気を悪くしたかもしれませぬが」
「いいえ。私の方こそ、ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」
勝手に寺を飛び出すなぞ、到底許されぬ所業である。ここで破門を申し渡されたとて、文句は言えない。
光照は静かに微笑した。
「どうやら、頼房は、そなたに惚れておるようですね。そなたの胸中はよくよく存じているだけに、実るはずのない恋をしたあの子を見るのは母として複雑な心境です」
そこで淋しげに笑う。
「さりながら、今更、母親面してこのようなことを申せば、また余計に、あの子に疎まれてしまうに相違ありませぬけど」
泉水は少し逡巡した後、思い切って言った。
「庵主さまとあの方が親子でいらっしゃるなんて、思ってもみませんでした」
―あの人にとっては、この月照庵が我が子のようなものだったんだろう。
そう呟いたときの夢五郎の淋しげな表情が蘇る。夢五郎の素性は判ったが、この母子の間に横たわる複雑な事情は依然として曖昧なままだ。
泉水の沈んだ顔を見て、光照は笑みを絶やさず続けた。
「頼房が私を恨んでいることは判ったでしょう?」
「そんな、恨むだなんて」
言おうとして、口をつぐむ。この場合、安易な慰めの言葉はかえって失礼になるだけだ。何より、光照自身が夢五郎の心中をよく知っているだろう。
「良いのですよ。頼房が私を恨んでいるのはよく存じていますゆえ。それに、恨まれても当然のことを、私はあの子に対してしたのです」
その枕許に、光照が座っている。
「私も愕いたのですよ。あの子は―頼房は人前で滅多と動じることはありませんが、今夜だけは違いました。あなたがいなくなったことを告げた途端に、顔色を変えて飛び出してゆきました。一体、あなたに何をしたのだ、あなたの身に何が起こったのだと、いきなり食いかかってきたのですよ。それで、あなたが身ごもっていることも頼房に告げざるを得なかったのです。そのことについては、気を悪くしたかもしれませぬが」
「いいえ。私の方こそ、ご心配をおかけして、申し訳ございませんでした」
勝手に寺を飛び出すなぞ、到底許されぬ所業である。ここで破門を申し渡されたとて、文句は言えない。
光照は静かに微笑した。
「どうやら、頼房は、そなたに惚れておるようですね。そなたの胸中はよくよく存じているだけに、実るはずのない恋をしたあの子を見るのは母として複雑な心境です」
そこで淋しげに笑う。
「さりながら、今更、母親面してこのようなことを申せば、また余計に、あの子に疎まれてしまうに相違ありませぬけど」
泉水は少し逡巡した後、思い切って言った。
「庵主さまとあの方が親子でいらっしゃるなんて、思ってもみませんでした」
―あの人にとっては、この月照庵が我が子のようなものだったんだろう。
そう呟いたときの夢五郎の淋しげな表情が蘇る。夢五郎の素性は判ったが、この母子の間に横たわる複雑な事情は依然として曖昧なままだ。
泉水の沈んだ顔を見て、光照は笑みを絶やさず続けた。
「頼房が私を恨んでいることは判ったでしょう?」
「そんな、恨むだなんて」
言おうとして、口をつぐむ。この場合、安易な慰めの言葉はかえって失礼になるだけだ。何より、光照自身が夢五郎の心中をよく知っているだろう。
「良いのですよ。頼房が私を恨んでいるのはよく存じていますゆえ。それに、恨まれても当然のことを、私はあの子に対してしたのです」
