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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第33章 儚い恋

 兵庫之助が買ってきた朝顔の鉢が無惨に割れている。誰かが故意に割ったのは明白で、相当の強い力でぶつけたらしく、鉢は粉々になり、今朝方、花を咲かせていた四つの花はすべて引きちぎられていた。
「―!」
 あまりの惨状に、泉水の眼から涙が溢れた。
―誰がこのような酷いことを―。
 そう言おうとして、ハッとした。
 絶望を宿した昏い瞳で泉水を見つめていた男の貌が瞼に蘇る。
「まさか」
 泉水は震えながら呟いた。
 これは、泰雅からの最後通牒ではないのだろうか。
―俺は今度こそ、そなたをけして許さぬ。俺を貶め、絶望の底へと突き落としたそなたを生かしてはおかぬ。我が身が地獄に堕ちる宿命であれば、たとえ地獄の底まででも、そなたを共に連れてゆく。
 声なき声がいずこかより聞こえてくるようであった。
 みるみる溢れる涙で視界がぼやける。
 隣からチリリンと響く風鈴の音がやけに遠く聞こえた。

(いよいよ明日から最終章に突入!
 泉水と泰雅、更に兵庫之助までをも巻き込んだ運命の糸はどのような形をおりなすのか?)

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