
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第35章 哀しみの果て
深い水底(みなそこ)を思わせる閨の中は、物音一つない。褥に横たわる泉水の上に泰雅が覆い被さっている。二人とも何も身につけておらず、泰雅にはぎ取られた夜着や解かれた帯が周囲に散らばっている。
泉水の指の間に泰雅の指が滑り込み、指を絡めるようにして強く握られた。
「そのような顔をするな、余計にそそられる」
男の指があらぬ場所に滑り込んでくる。噛みつくように口づけられ、更に長い指を奥深くに差し入れられると、背筋に妖し震えが走る。乳房の突起を探り当てられ、執拗にいじられながらも、ひとたびは抜いた指を今度は更に奥深くにぐっと挿入される。
指を幾度も抜き差しされ、乳房を吸われていると、身体の芯が甘く痺れ始めた。その痺れは腰に伝わり、漣のように身体中にひろがってゆく。
両脚を押しひろげられ、脹ら脛をつうっと撫でられ、太股に口づけられた。
「あ―、ああ」
泉水の唇から艶めかしい声が洩れた。
高く昇りつめていこうとする身体を懸命に現実へと引き戻し、泉水は自分の指に歯を立てた。その指に、泰雅が唇を寄せる。
いつのまにか、行灯の明かりも弱まった。泉水の喉を汗の玉がすべり落ちてゆく。その雫を泰雅はそっと唇で吸い取った。
あれほど嫌でたまらなかった泰雅の愛撫が何故か心地良く感じられる。覆い被さった泰雅が動く度に、濡れたような音と共に、腰の奥から甘く狂おしい痺れがひろがり始めた。
泉水は夢見心地で、その淫らな音を聞いた。
泰雅が低い呻き声を洩らした刹那、泉水の腰に稲妻のような痺れが走る。全身を心地良い衝撃が貫き、駆け巡る。
泉水は覆い被さる男の肩に指を這わせ、軽く爪を立てた。
理性という危うい一本の糸で封印されていた甘やかな感情が、花びらのようにはらはらと零れて散る。
解き放たれた感情は泉水をめくるめく夢の中に誘(いざな)い、泉水は我を忘れるほどに乱れ、幾度も男の上で豊満な身体をしならせた。自分の身体が揉み壊された花のように、一つ一つ、ばらばらに砕けて落ちるような錯覚を覚えた。
まるで嵐に翻弄される花びらのように、泉水は幾度も泰雅に挿し貫かれ、悦びの声を上げた。それから後も二人は烈しい情交を重ねたけれど、泉水はそれらのすべての出来事をどこか夢うつつにのように感じていた。
