光の輪の中の天使~My Godness番外編~
第2章 流れた歳月
「頼むから、泣かないでくれよな。もし、こんなところに柊が戻ってきたら、俺、また何かやらかしたんじゃないかと疑われて、あいつに今度こそ殺されるから」
悠理が笑いながら続ける。
「それに、俺がこんなことを言えた義理じゃないもかしれないが、あんたがあの子を産んでくれたときに、俺の憎しみも哀しみもすべて消えたよ。もう二度と口にはしないから、せめて今だけは言わせてくれ。あの子は俺のただ一人の子どもで、あんたは俺の子どもを生んだ、ただ一人の女なんだ」
「ママ~」
理乃が砂場で手振っている。それに応えるように手を振り返して実里は言った。
「あの子の名前は柊路さんがつけたの。私に是非、名前をつけさせて欲しいと言ったので、お願いすることにしたの。あの人、何も言わなかったけれど、何故、理乃ってつけたかは判ったわ」
理乃の〝理〟は悠理の名前から取ったのだ。この世では生涯、父と子とは名乗りあえぬ宿命を背負った娘。その娘に実の父親の片(かた)諱(いみな)を与えたのだ。
「今のところは、俺は保育士になるのが夢なんだ。自分の子どもが持てないのなら、せめて他人の子どもでも良いから、関わっていきたいなって。でも、かみさんの実家が小さいながらも網元だし、かみさんは一人娘だから、もしかしたら、将来は漁師になるかもしれない。今も保育園が休みの日には親父さんと漁に出ているしね」
かつてはナンバーワンホストとして多くの女性客たちの心を奪った悠理。その冷たく美しい微笑は氷の微笑といわれ、〝キラースマイル〟とすら囁かれたのだ。今でも悠理の勤めたホストクラブでは、伝説の売れっ子ホストとしてその名が語り継がれていると柊路が風の噂で聞いたらしい。
そんな彼が今は作業着に長靴と実用一辺倒の格好で日がな漁船に乗り、或いはジャージにパステルカラーのエプロンを着て園児たちに絵本の読み聞かせをしているなどと誰が信じるだろう!
自分の上にも、彼の上にも確かに時間は流れたのだ。その過ぎ去った月日の重さは何より、眼の前の子ども―理乃の成長が物語っていた。
想いに沈む実里の耳に、理乃の泣き声が飛び込んでくる。どうも、またしても転んだようだ。あの年頃の子どもは本当によく転ぶ。
悠理が笑いながら続ける。
「それに、俺がこんなことを言えた義理じゃないもかしれないが、あんたがあの子を産んでくれたときに、俺の憎しみも哀しみもすべて消えたよ。もう二度と口にはしないから、せめて今だけは言わせてくれ。あの子は俺のただ一人の子どもで、あんたは俺の子どもを生んだ、ただ一人の女なんだ」
「ママ~」
理乃が砂場で手振っている。それに応えるように手を振り返して実里は言った。
「あの子の名前は柊路さんがつけたの。私に是非、名前をつけさせて欲しいと言ったので、お願いすることにしたの。あの人、何も言わなかったけれど、何故、理乃ってつけたかは判ったわ」
理乃の〝理〟は悠理の名前から取ったのだ。この世では生涯、父と子とは名乗りあえぬ宿命を背負った娘。その娘に実の父親の片(かた)諱(いみな)を与えたのだ。
「今のところは、俺は保育士になるのが夢なんだ。自分の子どもが持てないのなら、せめて他人の子どもでも良いから、関わっていきたいなって。でも、かみさんの実家が小さいながらも網元だし、かみさんは一人娘だから、もしかしたら、将来は漁師になるかもしれない。今も保育園が休みの日には親父さんと漁に出ているしね」
かつてはナンバーワンホストとして多くの女性客たちの心を奪った悠理。その冷たく美しい微笑は氷の微笑といわれ、〝キラースマイル〟とすら囁かれたのだ。今でも悠理の勤めたホストクラブでは、伝説の売れっ子ホストとしてその名が語り継がれていると柊路が風の噂で聞いたらしい。
そんな彼が今は作業着に長靴と実用一辺倒の格好で日がな漁船に乗り、或いはジャージにパステルカラーのエプロンを着て園児たちに絵本の読み聞かせをしているなどと誰が信じるだろう!
自分の上にも、彼の上にも確かに時間は流れたのだ。その過ぎ去った月日の重さは何より、眼の前の子ども―理乃の成長が物語っていた。
想いに沈む実里の耳に、理乃の泣き声が飛び込んでくる。どうも、またしても転んだようだ。あの年頃の子どもは本当によく転ぶ。