光の輪の中の天使~My Godness番外編~
第2章 流れた歳月
実里が苦笑しながら立ち上がろうとするよりも先に、悠理が立ち上がった。それは実里も戸惑うほどの素早さであった。
彼は理乃の許へ走ってゆくと、泣いている娘を腕に抱き上げた。
「さては、また転んだな」
悠理が理乃の顔をのぞき込むと、理乃はしゃくり上げながら頷いた。
「この、お花。凄くきれいだから、あげようと思って」
理乃の小さな手には、紫陽花の花が握りしめられていた。言葉どおり、紫陽花を摘んで、こちらに来ようとしているところだったらしい。
そういえば、公園の片隅―砂場の向こうの一角にひと群れの紫陽花が咲いていたことを今更ながらに実里は思い出していた。
「理乃、駄目でしょ、お外に咲いている花を勝手に摘んだりしちゃいけないって、ママ、いつも言ってるのに」
後から来た実里がたしなめると、理乃は泣きながら訴えた。
「だって、おじちゃんにこのお花をあげようと思ったんだもん」
その刹那、悠理の眼がかすかに大きくなり、忙しなくまたたいた。
その時、小麦色に灼けて、すっかり精悍さを増した彼の横顔に流れ落ちる雫を夕陽がはっきりと捉えた。ひとしずくの涙はあかね色に染まり、彼の頬を流れ落ちて消えた。
「そっか。おじちゃんにお花、くれようと思ったのか。ありがとうな。大切にするよ。だけど、もうこれからはお母さんの言うことをちゃんときいて、お花を摘んだりしちゃ駄目だぞ?」
約束できるな?
そう言って差し出した小指に、理乃の小さな指が絡められた。黄昏の光は切り立てのオレンジからしたたり落ちる果汁のようだ。その光が二人の大きな手と小さな手をまるで影絵のシルエットのようにくっきりと映し出していた。
「じゃあ、おじちゃん、また理乃と遊んでくれる?」
理乃の無邪気な問いに、悠理は一瞬、眼を伏せる。
「ああ、また一緒に遊ぼうな」
それが永遠に果たされることがない約束だと知っているのは、実里と悠理だけだ。
彼は理乃の許へ走ってゆくと、泣いている娘を腕に抱き上げた。
「さては、また転んだな」
悠理が理乃の顔をのぞき込むと、理乃はしゃくり上げながら頷いた。
「この、お花。凄くきれいだから、あげようと思って」
理乃の小さな手には、紫陽花の花が握りしめられていた。言葉どおり、紫陽花を摘んで、こちらに来ようとしているところだったらしい。
そういえば、公園の片隅―砂場の向こうの一角にひと群れの紫陽花が咲いていたことを今更ながらに実里は思い出していた。
「理乃、駄目でしょ、お外に咲いている花を勝手に摘んだりしちゃいけないって、ママ、いつも言ってるのに」
後から来た実里がたしなめると、理乃は泣きながら訴えた。
「だって、おじちゃんにこのお花をあげようと思ったんだもん」
その刹那、悠理の眼がかすかに大きくなり、忙しなくまたたいた。
その時、小麦色に灼けて、すっかり精悍さを増した彼の横顔に流れ落ちる雫を夕陽がはっきりと捉えた。ひとしずくの涙はあかね色に染まり、彼の頬を流れ落ちて消えた。
「そっか。おじちゃんにお花、くれようと思ったのか。ありがとうな。大切にするよ。だけど、もうこれからはお母さんの言うことをちゃんときいて、お花を摘んだりしちゃ駄目だぞ?」
約束できるな?
そう言って差し出した小指に、理乃の小さな指が絡められた。黄昏の光は切り立てのオレンジからしたたり落ちる果汁のようだ。その光が二人の大きな手と小さな手をまるで影絵のシルエットのようにくっきりと映し出していた。
「じゃあ、おじちゃん、また理乃と遊んでくれる?」
理乃の無邪気な問いに、悠理は一瞬、眼を伏せる。
「ああ、また一緒に遊ぼうな」
それが永遠に果たされることがない約束だと知っているのは、実里と悠理だけだ。