光の輪の中の天使~My Godness番外編~
第1章 出逢いはある日、突然に
その言葉を柊路は忠実に守り、三歳になった理乃は柊路が本当の父親だと信じて疑っていないし、事実、柊路は実里が見ても呆れるほど理乃を溺愛している。
結婚式を挙げたのは理乃の一歳のバースデー。娘の初めての誕生日が二人の結婚記念日となった。
「ママ、バンソーコーあったの?」
理乃が小首を傾げて訊く。
戸惑いに呑み込まれそうになっていた実里はハッとして小さく肩を竦めた。
「ごめんね。こんなのしか持ってきてなかった」
取り出して見せたのは、百円ショップで買った何とも平凡なカットバン。それを見るや、理乃がわあわあと泣き出した。
「イヤ。このバンソーコー、キティちゃんもアンパンマンもついてないんだもん。りのは、こんな何もついていないのはイヤだもん」
理乃は今年、三歳になった。元々、聞き分けの良い素直な子なのだけれど、ふた月ほど前に実里の妊娠が判ってからというもの、〝赤ちゃん返り〟が始まってしまった。つまり、それまで独り占めにしていた両親の愛を新しく生まれてくる妹か弟に横取りされることへの不安の裏返しである。
「イヤだもん、イヤだもん」
理乃は壊れたおもちゃのように同じ台詞を繰り返して首を振る。実里は深い息を吐いた。 と、あの男―悠理が上背のある身体を折り曲げるようにしてしゃがみ込んだ。理乃の目線の高さに合わせて、にっこりと笑う。
「お母さんを困らせるのは感心しないぞ?」
「―おじちゃん、誰?」
理乃は突如として現れた見知らぬ男をまじまじと見つめている。驚きと好奇心が勝ったらしく、涙は止まっていた。
実里は息をのんでなりゆきを見守っていた。果たして悠理が何と応えるか。まさか父親だと正面切って言うほどの厚かましさも度胸もあるまいが、万一ということもある。
更に、何故今になって、彼が突然、こんな場所に姿を現したのかも気になった。
今日、この小さな港町を訪れたのは実里も柊路も計画すら立てていなかったのだ。思いつきで降り立った小さな町に悠理がいた―、何か出来すぎた偶然のような気がしてならない。
結婚式を挙げたのは理乃の一歳のバースデー。娘の初めての誕生日が二人の結婚記念日となった。
「ママ、バンソーコーあったの?」
理乃が小首を傾げて訊く。
戸惑いに呑み込まれそうになっていた実里はハッとして小さく肩を竦めた。
「ごめんね。こんなのしか持ってきてなかった」
取り出して見せたのは、百円ショップで買った何とも平凡なカットバン。それを見るや、理乃がわあわあと泣き出した。
「イヤ。このバンソーコー、キティちゃんもアンパンマンもついてないんだもん。りのは、こんな何もついていないのはイヤだもん」
理乃は今年、三歳になった。元々、聞き分けの良い素直な子なのだけれど、ふた月ほど前に実里の妊娠が判ってからというもの、〝赤ちゃん返り〟が始まってしまった。つまり、それまで独り占めにしていた両親の愛を新しく生まれてくる妹か弟に横取りされることへの不安の裏返しである。
「イヤだもん、イヤだもん」
理乃は壊れたおもちゃのように同じ台詞を繰り返して首を振る。実里は深い息を吐いた。 と、あの男―悠理が上背のある身体を折り曲げるようにしてしゃがみ込んだ。理乃の目線の高さに合わせて、にっこりと笑う。
「お母さんを困らせるのは感心しないぞ?」
「―おじちゃん、誰?」
理乃は突如として現れた見知らぬ男をまじまじと見つめている。驚きと好奇心が勝ったらしく、涙は止まっていた。
実里は息をのんでなりゆきを見守っていた。果たして悠理が何と応えるか。まさか父親だと正面切って言うほどの厚かましさも度胸もあるまいが、万一ということもある。
更に、何故今になって、彼が突然、こんな場所に姿を現したのかも気になった。
今日、この小さな港町を訪れたのは実里も柊路も計画すら立てていなかったのだ。思いつきで降り立った小さな町に悠理がいた―、何か出来すぎた偶然のような気がしてならない。