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光の輪の中の天使~My Godness番外編~

第1章 出逢いはある日、突然に

 実里の疑惑のまなざしにも頓着する風も見せず、悠理が小さく笑った。
「おじちゃんか? おじちゃんはな―。泣く子を見ると放っておけない、正義の味方なんだ」
「なに、それ。ヘンなの」
 理乃はおませな口調で鼻を鳴らした。
「それよりも」
 と、悠理はポケットをまさぐって何かを探していたかと思うと、小さな包みを取り出した。
「それ、なあに?」
 理乃のあどけない問いに、悠理は笑みを含んだ声音で応える。
「濡れティッシュ。これで傷についた砂を取って、バンソーコーを貼ろう」
「でも―」
 理乃がイヤイヤするように首を振るのに、悠理は少し怖い顔になった。
「傷はきれいにしとおかないと、ここからばい菌が入って、もっと痛い痛いになるんだぞ」
「アンパンマンに出てくるバイキンマンみたいに悪いことするの?」
 悠理が笑ってうなずく。
「そうだ。そんなになったら、イヤだろ? だから、大人しくバンソーコー貼ろうな」
 悠理はまた優しいおじさんに戻り、かいがいしくウエットティッシュで理乃の傷を拭いてやった。
「バンソーコー貸して」
 振り返りもせずにさりげなく言われ、実里は言われるままにバンソーコーを渡していた。彼は小さなカットバンを理乃の膝小僧に貼る。
「よし、これで完了。もうバイキンマンは来ないぞ」
 悠理が軽く理乃の膝―バンソーコーを貼ったばかりのところを叩くと、理乃が顔をしかめる。
「おじちゃん、怪我したところを叩いたら、痛いよ」
「そっか。それもそうだな、ごめん」
 悠理は屈託なく言った。その整った横顔には陰りは微塵もない。それを裏付けるかのように、実里に真っすぐに向けられた双眸はどこまでも澄んでいる。
 まるで、梅雨の狭間の今この瞬間、頭上にひろがる蒼空のように。

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